豊島逸夫の手帖

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今後の金価格を占うポイント - 出口戦略の成否

2009年9月9日

現在の金価格を見るに、商品(コモディティー)としての需給要因から乖離し、金融商品として売買されるマネーとしての側面が強まっている。そこで今後の金価格を占う上で重要な点が「出口戦略」の成否であろう。その関連で米国債券市場の動きが金価格の趨勢に影響を与えそうだ。

まずは、このグラフをご覧いただきたい。(出典:米セントルイス連邦準備銀行webサイト)

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FRBのマネタリーベースという市中への通貨供給の源となる統計数字が、2009年に入って激増している事実が鮮明に見てとれる。

FRBによる国債など各種債券買い取りの対価として、民間銀行がFRBに持つ口座に振り込まれた金額が含まれる。この金額を元手に民間銀行はその数十倍もの融資を行うことができる。(いわゆる「信用創造」の原理で、2008年9月22日付け本欄にて詳説した。)

こうして、「経済有事」の中で、マネーが市中に氾濫した。しかし、有事が平時に移行する過程では、その過剰なマネーをFRBが吸い上げる必要がある。これが、いわゆる「出口戦略」だ。この成否が与える金価格への影響とは。

◎まず、バーナンキが首尾良く出口戦略を成功させた場合。
過剰な資金供給は解消され、順調な景気回復とともに金利が徐々に上がってゆく。いわゆる良い金利上昇。米国ドル短期金利の指標となるFFレート(政策金利)もゼロ金利から脱出する。金利がつかない金は資産として売られる。

◎次に、出口戦略に失敗するケース。
まず、早まって市中のマネーを回収してしまう場合。せっかくの景気回復に水を差す結果となり、ただでさえデフレ懸念がくすぶる中でデフレスパイラルに陥る可能性が意識される。このケースでは、当初はFRBの金融引き締めへの転換、利上げ観測がマーケットを震撼させる。株も金も売られる展開となる。しかし、デフレスパイラルが進行すると、破たん信用リスクが急激に高まり、VIX指数(別名恐怖指数)が上昇する中で、安全性を求めるマネーが金市場に逃避することとなる。金価格はV字型を描く。

◎対して、出口戦略が後手に廻る場合。
これは一転してマネタリーインフレ招来のケースとなる。市中に溢れたマネーが放置され、過剰流動性となり、マーケットで暴れ、資産価格が上昇する。株にも商品にもリスクマネーが戻って同時上昇するだろう。ドル過剰供給はドル価値の希薄化をも意味するので、金価格上昇に拍車が掛かる。

このように出口戦略の成否は金価格にとって大きなインパクトがあるのだ。どのシナリオになるかは、バーナンキの微妙な舵取り次第。筆者の見立てでは、失業率が10%に接近し、雇用なき成長に対する国民の不満が高まると、どうしても出口戦略が後手に回りがちになろう。とくにバーナンキは民間の学者の頃、ヘリコプターベンの異名を取り、デフレには空からおカネをばら撒けと言って憚らなかった人物。

FRBが「通貨価値の番人」として、どこまで独立性を守れるか、ということも重要だ。バーナンキを再任命したのはオバマである。ホワイトハウスの景気重視圧力に対して、果たして独立でいられるのか。マネーを吸い上げるというのは、結局、国民に痛みを強いる政策なので、政治的には選択しづらいものだ。

出口戦略は政策論議であるが、マーケットは直接的に米国債入札動向など米国債券市場の動きにも注目する秋相場となりそうだ。

なお、金価格1000ドル突破にあたり、筆者の欧米の友人二人の見方を紹介する。
◎USBコモディティーアナリスト、ジョン・リードは来年にかけて1200ドル。
◎GFMSのCEOポール・ウオーカーは、目先弱気で需給要因により反落と見るが、その後再び高値トライを予測する。

2009年