2009年3月11日
シティーのパンディットCEOが従業員向けレターで"今年1-2月は黒字だ。皆、頑張ろうぜ"と書いたことが報道され、NY株は急騰。そこで株式市場関係者の胸の内は"ホント?信じていい?信じたいのはヤマヤマなれど...。"
筆者の見るところ、信じるに足る証拠不十分。なんせ、米国大手金融機関は米国マクロ経済データが悪化するたびに保有資産の価値が下落し、追加損失を計上するという悪循環を繰り返してきた。そして、先週は雇用統計が(予想通りの)悪化。失業率は8%台。この米国経済悪化は銀行保有資産の価値再下落を招くは必至。シティーが1-2月に黒字転換と言っても、それでは、失業率が8%になってその黒字を維持できるかは全く別問題である。
失業率8%の前提で銀行の資産、損益状況がいかに変化するか、という試算をすることをストレステストという。例えば、人間ドックで甘いサイダーを一本飲んで、血糖値がどれほど上がるかを検査することはストレステストと言える。よく、人間ドックの一週間前から禁酒節制などという輩が筆者の周辺にも多いが、それではストレステストにならない! だから、シティーの発表も人間ドック検査前に私は健康を取り戻しつつあります、と述べているようなもの。
さらに重大なことは巨額の簿外資産を引き続き抱えていること。これは、人間ドックの問診で本当の自覚症状を話さないということと同じようなものだ。それにシティー株が"40%近い急騰"と言っても、1ドル5セントが1ドル40セントになったという話でしょ。
さらに、金融市場全般を見れば信用不安が逆に高まっている。LIBOR(銀行間貸借金利)がジリジリ上昇していることがその証拠。要は銀行間同士の疑心暗鬼状態が続いているのだ。今朝も米国経済チャンネル見ていたら、最近金融危機の悪化を次々に具体的な数字で予測し当てているので売れっ子になったアナリストのお姐さんウイットニー女史(いつのまにか独立してた)が、次はクレジットカード債権がやばい、と色々な数字を並べて力説していた。
ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーの業績も回復見通しが語られるが、これとてライバル金融機関が次々に業務縮小、撤退する中でマーケットの流動性が薄れたことの"恩恵"にあずかっているに過ぎない。マーケットの参加者が減るということは顧客も拡がった売買スプレッドを受けざるを得ない。つまり、少数の生き残り勝ち組は顧客からより高いマージンを得られるのだ(だって顧客にしてみれば他に行くとこが無いのだからしょうがない。)
結局以下の悪循環が続く。
オバマ政策に具体性が欠ける。アクションも期待より遅い。
↓
金融不安払拭できず
↓
実体経済も回復できず
ここは何度も書いているようにオバマが"エイヤッ"の気合いで政治的に決断すればいいのだよ。"こう決めたらから皆の衆俺についてこい"と言えばカリスマ性があるのだから国民はついてくると思うのだ。ガイトナー、サマーズのブレインは頭が良すぎて、考えすぎなのじゃないかな。大統領(そして経営者一般にも云えることだが)は、アナリストタイプでは勤まらない。或いは、ガイトナーにしてもサマーズにしても、結局不良債権の値付けには妙案が浮かばないのかも...。
なお、サマーズはFTの一面トップインタビュー記事で"この際、おカネ、ジャブジャブはまずい、などと言っていられる状況ではない。G20は皆おカネをジャブジャブ入れるべきだ。それがグローバル経済不均衡問題の解決を遅らせるとしてもやむを得ない"というような趣旨の発言をしていた。これが筆者の金価格中長期的強気説の最大の要因。金融危機で経済有事の金という展開であればそれは一過性だ。
それからNY株式市場では空売り規制再導入の話が買い材料視された。空売り規制といっても帳簿上だけの売り(naked short selling)を禁止するという話ではない。uptick ruleというのだが、価格が下がっているときに、(追い打ちをかけるように)空売りすることを制限する規制である。
さて、金市場はやっと900ドル割れ。株高、ドル高、金融不安の(一時的)緩和など売りの材料が揃った。筆者が一番注目していることはアジア中東の需給ジャブジャブが続いていること。ここに仮に900ドル割れで買いが入るか否か。従来であれば、1000ドルを見た後の800ドル台は割安感があるので価格効果で買われる、というのが常であった。ところが今回は新興国経済減速という負の所得効果が効いている。要は、インドの花嫁の父たちが可愛い娘の結婚式を5月に控え、持参金=ゴールドを買うにあたり、ルピー建て価格動向を見ながら安くなったら即買うというのなら価格下支え要因になるのだが、いかに可愛い娘のために気張ってあげたくても無い袖は振れないということになるかもしれない。
ただ、900ドル割れてくると、これまで金価格に素っ気なく釘刺し的コメントばかり繰り返し、取材に見える方々を困惑させていた"釘刺しジェフ"の目の色が、だんだんギラギラしてくることも事実だ。でも、金価格急落時に取材に見える方は稀少だけどね...。
来週あたりから1000ドル直後に取材されたインタビュー記事が載った雑誌などが次々発行されるはずですが、全て目先弱気、中長期強気の発言になっています。まぁ、1000ドルから直ぐに1200ドルというシナリオを書くはずだった処では、記事がボツになった可能性もありますが...。
なお、昨晩発表のUBSレポートは金価格のポテンシャル2500ドルと書いています。(彼らの予測モデルによれば)。