豊島逸夫の手帖

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三度目の正直?

2009年6月1日

昨年3月と今年の2月と、金価格は2回1000ドルを突破しているが、いずれも数日の短命に終わっている。そして、今回、3度目の試技になりそうな様相。こういう時こそ、冷静に需給ファンダメンタルスを改めて噛み締めるべきであろう。そこでまず冒頭に世界金需給四半期ごとの推移を表でまとめた。

世界金受給の推移(単位:トン)


 
2007 2008 2008-  2007
増減
Q4'07 Q1'08 Q2'08 Q3'08 Q4'08 Q1'09 前年同期比
供給  新産金 2478 2416   633 544 588 633 650 560 3
 ヘッジ買戻し -444 -358  ... -71 -129 -121 -60 -48 -10 ...
 公的売却 484 246 -49 97 77 72 81 16 35 -54
 スクラップ 958 1215 27 277 359 277 217 362 558 55
需要  加工需要                    
宝飾用  2404 2186 -9 489 475 532 695 484 352 -26
工業用  462 436 -6 110 116 118 112 90 80 -31
 投資用 609 898 47 337 262 166 64 406 711 171
平均価格(US$/oz) 695.39 871.96 25 786.25 924.83 896.29 871.6 794.76 908.41 -2

2007年と2008年の通年比較と、2007年第4四半期(2007Q4)から直近2009年Q1までの四半期ごとの推移、そして2009年Q1の前年同期比(%)を示してある。こうしてみると、2008年1-3月期の1000ドル突破の時期に比し、マーケットの景色がかなり変わっていることが明らかである。

供給サイドでは、中央銀行の金売却は急減し、代わってリサイクルの売り戻しが急増。そしてヘッジ買戻しは急減。

需要サイドでは、宝飾、工業用の実需の減少が顕著であるが、投資用は急増している。とくに投資用の現物需要が今年1-3月で711トンもあったことは大きな変化だと思う。昨年1-3月の1000ドルがヘッジファンド主体、先物主体の買いであったのに対し、今回は、現物の大量の買いも伴っている。それだけ現物需要という下地が出来たうえでの先物買いということである。

投資需要の内訳


 
2007 2008 2008-  2007
増減
Q4'07 Q1'08 Q2'08 Q3'08 Q4'08 Q1'09 前年同期比
 金地金 236.5 391.8 66 30.4 49.4 92.2 126.4 123.9 -33.2 ...
 金貨 209.6 260.9 24 30.8 39.3 51 86.8 83.8 75 91
 金口座 -13.6 209.7 ... 5.9 9.8 4.7 57 138.1 89 804
 ETF 253.3 320.9 27 80 72.7 4 149.5 94.7 465.1 540

さらに、確認できる現物投資需要の商品別内訳が上記の表である。(なお、これ以外に具体的商品が確認できない投資需要もある)。金地金は高値で売り戻し先行ゆえマイナス。金貨、金口座、金ETFは急増という構図だ。さらに地域別の金需要推移をグラフにするとこうなる。宝飾中心のインドが激減し、投資中心の欧州が激増している。

地域別・四半期別金需要推移

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以上を見て総じて言えることは、昨年より現物投資に下値を支えられているものの、上値ではリサイクルという二次的供給が加速度的に増え、頭を押さえる。後はインドの需要が、いつ、どこで回復するかということが注目点である。

足元での930ドルから980ドルまでの急騰は、ほとんどが空売りのストップロス買戻しによるものと考えてよい。現物市場では売り戻しが優勢だ。従って、このまま調整期間もなくモメンタム(勢い)で3回目の1000ドル突破の試技に突入しても短命に終わりそう。ただし、今は売りに廻っている新興国の経済成長が回復の兆しを見せ、かつ、高値慣れしてくると、長期的には1000ドルの持続性が出てくると思う。大事なことは、瞬間タッチで1000ドルを超えるとか超えないとかいうことではなく、大台が支えられるかという点である。

なお、サプライズとしては、今後、中国のさらなる公的金購入とかカルパースの金買いなどのニュースが出てくると、大きく跳ねる推進力になろう。

2009年