豊島逸夫の手帖

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今なぜ金が上がっているのか(初心者向け)

2009年9月18日

金融危機が最悪期を脱し、株価も大底をつけたと言われる今になって金価格が史上最高値をつけています。原油が急騰しているわけでもないのに、今、なぜ金価格だけが派手に上がっているのでしょうか。

その最大の理由は、米国がドル札を刷りまくっているからです。百年に一度と言われる金融危機と世界同時不況を乗り切るために、米国政府は未曾有の規模の「マネージャブジャブ作戦」に打って出ました。巨額の公的資金を投入して銀行を救済、そして景気刺激策として、これまた巨額の財政資金を民間に投入しています。なりふり構わず経済をマネー漬けにして、この難局を乗り切ろうというのです。

とりあえずは、この作戦が功を奏して、米国経済は何とか最悪期は脱したと言われるようになりました。さぁ、そこで問題は、ばら撒いたドルの回収作戦をいかに実行するかです。このまま放置すればドル札が市中に溢れ、100ドル札で買えるモノは確実に減ってしまいますから。日銀にあたるFRBは、何とかせねばなりません。でも、せっかく回復の兆しを見せ始めた米国経済からマネーを吸い上げれば、何とか生命維持装置で延命してきた銀行が再び苦境に戻り、金融危機の再燃ともなりかねません。景気回復にも水を差す結果となってしまいます。結局、ばら撒かれたドル札は回収されず、ドルの価値が薄まってしまうことが懸念されているのです。

外為市場ではドルが売られ、その代わりに買われているものの一つが金(ゴールド)というわけです。そこで、なぜ金なのか、という質問もあると思います。その理由を理解するには歴史的視点が必要になります。そもそも通貨の原点は金貨に代表される金(ゴールド)でした。ドルも、金と交換できる便利なペーパー(紙幣)として通貨の仲間入りをしたのです。さらに、現代では、そのドルが金と交換できる保証がなくても、一人立ちして「世界共通の通貨」として認められるに至ります。しかしサブプライムの震源地となった米国経済に世界中の投資家が不信感を抱くようになると、その当事国が発行したドルに対する不安感も当然強まってきます。そこで、昔であればドル札を米国政府に持ち込めば金に換えてもらえたわけですが、今はそうもゆかず、投資家が自らドルを売って金を買うという行動に出ているわけです。金投資はドルに対する不信任投票なのですね。通貨の原点回帰とも言えましょう。

今、金価格が上がっている理由はこれだけではありません。

昨年来、金融危機の中で凍りつき、ジッと動かずひたすら忍の一字でガマンしてきた投資マネーが、もういいでしょうとばかりに動めき始めたことも大きく影響しています。経済紙などでリスクマネー復活と言われる現象ですね。その結果、株も原油もそこそこ値を上げています。ゼロ金利に近いドルは売っぱらって、リスクがあっても金利の高い通貨に乗り換えようという動きも出てきました。金だって「安全資産」と言われますが価格変動リスクは厳として存在します。でも、実物資産だから、破たんして紙きれになるリスクは無いということで買われています。

金価格1000ドル突破は、昨年来これで3回目なのですが、これまでは金融危機という「経済有事の金」として買われ、株暴落の過程で一時的逃避資産(俗称「雨宿り資産」)として買われてきました。それが、今回は、かなり金市場の景色が異なります。それは金融危機や株暴落で懲りた投資家が、株も買うけれど、この先また何が起こるか分からないから金も同時に買っておこうという、所謂「リスク分散」を単に理屈ではなく実践しはじめたことでしょう。

欧米では年金基金が株や債券とともに金ETFを買うという傾向もあります。それから、金価格上昇の推進力の要因として無視できないのが、やはり中国なのです。中国は、自国製品を世界中に輸出して、今や二兆ドルものおカネを蓄えているのですが、ここにきて、その一部で金を買い始めました。彼らとて、いつまでもドルばかり抱えているのは抵抗があるのですね。同時進行的に、中国国内では民間の金解禁が進行中。大手銀行が相次いで金販売業務に参入しています。その結果、金の世界で中国は今年、インドを抜き世界最大の金需要国になる可能性があります。(ちなみに中国は世界最大の金生産国なのですが、金の輸入国でもあるのです。)

このように金価格上昇の理由は根が深いので、長期的に金価格が高止まりして、さらに上昇する可能性が強いと思います。しかし、ヘッジファンドなどの投機マネーも、史上最大の規模で金を買っていることが金融情報開示で分かっていますので、短期的には注意が必要です。さらに、ドバイとかムンバイという新興国の金市場には大量の金がリサイクルされて(高値圏で売り戻されて)還流してきています。冒頭にマネージャブジャブが金上昇の理由と書きましたが、金の需給も足元ではジャブジャブなのですよ。この傾向は、仮にこのまま金価格が急騰を続ければ加速してゆくでしょう。

金地金など現物は世界的に余っているのに、投機筋が先物で金を買っているので価格は上昇する。どうですか、皆さん、これってちょっと「やばそう」ですよね。ですから筆者は、個人が金急騰という話に乗ってホイホイ金を買うということには警告を発しています。しかし、ドルに不安を持つ世界中の投資家が、株や債券に加えて、金も「下がったら買う」と口を開けて待っていることも事実です。ですから、下がっても、暴落が続き長期的に価格が低迷することはないと思います。

個人投資家がリスク分散のために長期的に金を多少なりとも保有することには大いに意味があります。金価格史上最高値更新という話題が陳腐化して、過熱した相場が鎮静化に向かうような時から、コツコツ金を貯蓄感覚で買い増してゆくことが賢明な策と思われます。

以上、初心者向けコメントでしたが、最後に一言。民主党政権の財務相と金融相は、ちょっとやばいですね。野党感覚から脱却できず 口が軽すぎる。マーケット感覚が欠如している。投資家、そしてマーケットは、期待感とともに不安感も持って政権交代を見守っているのですから、ただ自分の鬱憤を晴らすために不安感を刺激するような発言は厳に控えるべきと強く思います。株もドルも、しばらくは彼らの言動に振り回されることになりそうで心配しています。

米国の財務長官(ガイトナー)は40代。日本の財務、金融大臣は二人とも70代。ほとんど親子ほどの年の差がありますね。うーむ。鳩山さん、なんとかなりませんかねぇ。やっぱり小沢さんの意向なのでしょうか...。

2009年