豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. GFMS社 2009年前半にも1000ドル再突破予測発表
Page627

GFMS社 2009年前半にも1000ドル再突破予測発表

2009年1月19日

先週末、GFMS(ゴールド フィールズ ミネラルズ サービス社=ロンドンの著名な調査会社)が発表した恒例の金年報アップデート版で、以下の結論が述べられている。

An investor-led breach of the March 2008 high of 1,023.50 is quite feasible during the first half (of 2009.)
"2008年3月の投資需要主導型史上最高値1023.50ドルが2009年前半に突破される可能性が十分にある。"

その根拠は、米国当局が金融危機、景気後退に対して、尋常ではない政策を導入し、monetise the debt=民間、公的両部門の債務を通貨増発により賄うことになるから。これはインフレ懸念を再燃させ、ドルの減価を招く、という。さらに、ユーロ、円などの他通貨にも不安があるので金が浮上するというシナリオだ。

まぁ、この論拠は、筆者がかねてから述べてきたことゆえ、我が意を得たりの感じであるが、注目すべきは、同社が"世界的景気後退により、宝飾などの実需が減退し、700ドルを大幅に下回る可能性ありと考えていたが"と断っていること。つまり、デフレ懸念で、これまでは、さほど強気になれなかったが方向転換しました、と言っているわけだ。

とくに、投資需要が堅調で、昨年後半から世界の富裕層中心に、金現物、および金現物の裏付けのある商品が大量に買われていることを注視している。一方でヘッジファンドなどの換金売りが跡を絶たず、これが、前記の大量の買いを覆い隠してきた感があるとも書いている。この機関投資家の信用収縮による強制的手仕舞い売りが一巡すれば、早晩、前記の買いが顕在化するであろうと。(富裕層は、機関投資家と異なり、決算期の心配もなく、信用収縮の影響も比較的軽微で、長期スタンスで買い持つ余裕がまだあるよ、ということだろう。)

同社が ここまで前説を翻すことは極めて珍しいこと。それほどに足元のマクロ経済状況を見るに、オバマ政権もいきなり崖っぷちに立たされているということだね。欧米金融市場の切迫感が伝わってくるレポートだと思う。

その他、恒例の週末拾い読みで気になること。

―ヘッジファンド関連統計。
ソロス氏によれば、ピーク時には2兆ドルを超えたヘッジファンドの運用資産規模が50-75%縮小するということだが、モルガンスタンレーはこの3月末までに 総運用資産が半減するという。また、バークレーズキャピタルは70-80%のファンドがshut=閉鎖、解散に追い込まれると予測する。
昨年12月だけでも、1500億ドルが、ヘッジファンドから解約などで流出したという。2008年のヘッジファンド運成績の平均がマイナス21.8%。これに対して運用報酬を2%も差っ引かれたのでは、顧客もたまらんわな...。踏んだり蹴ったりだ。当面、多くのファンドが解約制限条項を発動して問題を先送りしているが、やはり今年前半には"最終決断"を迫られるのは間違いない。そこいらが、金融危機第3幕となるのではないか。そして、その直後は、やはり金も運用資産売却処分の対象となるから(短期的には)売り込まれると思う。

―ルーブルの下げが止まらない。先週は、ついに対ドルで6年ぶりの安値を示現。そのルーブルを買い支えるために、ロシアの外貨準備は4か月で1600億ドルも減少した。専門用語でクローリングペッグと言われるのだが、ちょびちょびルーブルを切り下げてゆく現在のやり方は、外為市場内のルーブル先安感を煽るだけ。投機筋がそれを見込んで、さらにルーブルの先売りへ走る。さらなる切り下げ必至の情勢ゆえ、いっぺんにバッサリと切り下げないと、蛇の生殺し状態になるよ。
筆者には、プーチンが、どうも経済感覚に欠けるような気がしてならない。ロシアおよびその周辺諸国は、世界的金融危機に対して最も脆い経済構造だと思う。それゆえ、プーチンが経済悪化の反動で政治外交面の態度を妙に硬化させることが心配だ。ウクライナ経由欧州へのガス供給問題などが、その典型的例であろう。

2009年