豊島逸夫の手帖

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中国の米ドル追放構想はSDR

2009年3月25日

たまったFT(フィナンシャルタイムズ)を流し読みしていたら、いくつか興味深い記事があった。

まず、中国人民銀行総裁が、同行のウエブサイトで、"一国の信用を裏付けとする現行の通貨制度を見直し、米国経済とは切り離した世界共通の準備通貨を創設すべき"と述べ、米ドルに代わり、IMFが1970年に創設した SDR(特別引出権)(※)の活用を訴えている。その英語の論文は以下。
http://www.pbc.gov.cn/english/detail.asp?col=6500&id=178 (現在公開されていません)

同総裁の"HPコメント"の背景を、FT(フィナンシャルタイムズ紙)は"米ドル建て資産の最大の保有者として、中国はFRBのドル紙幣増発に起因するインフレリスクを懸念している"と解説している。同紙の記事の見出しは、China wants to oust dollar as international reserve currency=中国は米ドルを基軸通貨の座から追放を望む、というもの。

とはいえ、SDRが結局これまで日の目を見なかったのは、各国の思惑が異なり、理想が現実とはならなかったからだ。まぁ、同総裁のコメントも、米国に対して牽制球を投げた程度に考えるべきであろう。

それより、気になるのは、通貨増発に起因するインフレリスクをいかにして回避できるかということである。FRBが一旦ばら撒いたドルを、いかに回収できるか、という出口戦略だ。電気掃除機で吸い上げるように簡単には行かない。3兆ドルを超す様々な債券を買い取る過程で、その対価としてばら撒かれたドル。この諸々の債券をいかに民間に再売却して、その対価としてドルを吸い上げるか。

買い取るのは計画どおり進んでも、売り戻すのには時間がかかる。だから、FTも、Increases in money growth affect inflation with a long and variable lag=通貨供給の増加は長く様々な時間差を持ってインフレに影響を与える、と書いている。要は、筆者がこれまで述べてきたところの、原油急騰型インフレは急性一過性だが、通貨増発型インフレは糖尿病型で慢性化しやすい、ということだね。

マーケットは大量の資金投入を歓迎し、今朝の日経3面のヘッドラインにあるように"世界の株価 回復基調"である。そうなればマネーの流れが金から株へ回帰するのも至極当然。しかし、出口戦略を首尾よく成し遂げるか否かを見極めないと、まだ不安感は払しょくされない。

それから米国CNBCでは、2001年ノーベル経済学賞受賞のスティグリッツ教授が、一昨日マーケットを賑わせた官民共同の不良債券買い取りのガイトナー案を、"最終的に納税者に負担をさせる愚策"と手厳しく批判していた。やはり、マーケットも一晩寝ると少しは冷静を取り戻したようで、NY株も反落。そして金も続落。

筆者のシカゴの友人トレーダーが、"リフレ政策が功を奏すれば、金融危機緩和で金は売り。リフレ政策が失敗すれば、株価は再び下げ基調に戻る。そうなると4-5月にヘッジファンドがタオルを投げギブアップするケースも出そうだから、運用資産の強制手仕舞い売りに金も巻き込まれる。"とチャットしてきた。

先週の18日には、バーナンキの国債3000億ドル買い取り発表が通貨増発インフレの懸念を高め、金が買われたが、今週は、ガイトナーの官民共同不良債券買い取り構想を好感してNY株が急騰、金は反落。毎週のように潮目を変えるような材料が出る"鳴門海峡"状況がまだ続きそう。

話は出口戦略に戻るが、"官"が引き受けたリスクを"民"が再び本当に引き受けるのは、いつの日かね。ガイトナー構想は、"民"がリスクを引き取るという前提で描かれた絵なのだが。


主要国の通貨バスケットにより価値が決まるSDRについては、著書59ページ"幻のSDR構想"の章に書いてあるので参照されたい。ちなみに同章には、IMFが1976-79年の4年間にわたり総量776トンの金を売却したが、金価格は史上最高値まで上昇した実例も触れているので、今回のIMF金売却に対する市場の反応を予測する際の参考になろう。
2009年