豊島逸夫の手帖

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そして"国際経済不均衡"が残った

2009年4月15日

主要国あげての数十兆円単位での超大型財政出動と金融安定化のための未曽有の資金投入。おカネが民間にこれだけ投入されれば、"風が吹けば桶屋が儲かる"のパターンで、その恩恵が様々な人たちに波及する。それは景気刺激効果として歓迎すべき現象なのだが、各国の消費者、投資家の"心"が変わらなければ、世界経済が抱える根源的問題はそのまま残る。否、かえって顕著になる。

何が言いたいのかといえば、いわゆる"国際経済不均衡"はそのまま残るよ、ということだ。米国の過剰消費、過小貯蓄、中国の過小消費、過剰貯蓄という構造的問題である。米国で"風が吹いて儲かった"桶屋さんたちが、臨時収入を気前よく使い切るとしよう。その多くは中国製品をウオールマートで買うであろう。GM車よりトヨタを買うかもしれない。結局、米国の対外赤字が再拡大することになる。そして中国の輸出はふたたび増加基調となり、その輸出収入の多くは中国人により消費されず貯蓄される。アリ組の貯えがますます増えることになろう。

そして、ここからが最大の問題なのだが、アリ組が、その貯えで、巨大キリギリス(=米国)の借金の証文(=米国債)を今までどおり買い続けてあげるか、ということだ。どう見ても、これまで通り巨大キリギリスのツケの面倒まで見る気はないようだ。米中の"仮面夫婦"関係も、藤原紀香さんの決断に刺激され、ついに終焉の時を迎えるような様相である。

そうなると、米国の対外赤字を誰がファイナンスするのか(=米国債を誰が買うのか)?こう考えてくると、一連の世界規模の超大型財政出動は、"国際経済不均衡"の根源的問題を増幅させ顕在化させることになる。その解決策は、ドルに依存する国際通貨制度の改革にまで踏み込まねばならぬ。これは一年やそこらで各国の合意が得られるような生易しい問題ではない。

結局、サブプライムに起因する金融危機の前と後と、グローバル経済の構造的欠陥は変わらず残る。2009年も2010年も"新たな国際通貨制度の模索"という混迷期は続く。サブプライム前は、それでも"ユーロ"というドルの向こうを張る大型新人デビューに期待がかかったのだが、サブプラ後は、そのような期待の星も見当たらない。SDRといっても、結局IMFによる錬金術というか、加盟国間の収支の帳簿上の帳尻合わせの感は否めない。

つくづく感じることは、"性善説"にもとづいて"信用"をベースに構築されたシステムが、その根幹となる"信用"を失ったときの脆さ、である。もうひとつの解決策のシナリオとしては、中国人が安心して消費に走れるような社会のセイフティーネット(=年金などの社会保障)が構築されること。これも一年やそこらで出来ることではないが、可能性は十分にある。

そして、今は反省して"借金なんて、もう懲り懲り。クレジットカードの濫用も控えねば"と殊勝なことを言っている米国人消費者が、喉元過ぎても熱さを忘れず過剰消費を慎むかということ。これは微妙な問題で、世界全体が巨大キリギリス君の借金漬け大盤振舞を当て込む構造になっているので、過剰消費してくれないと、これまた困る人たちも多いのだ。だから米国人には、ほどほどの消費とほどほどの貯蓄をしてほしいのだが、そうは言ってもねぇ...。そんなに上手く、ことが運ぶかなぁ...。

今日言いたいことを纏めれば、慢性心臓病患者が心筋梗塞の発作を起こし、救急処置で一命はとりとめたものの、心臓の機能的問題は残る、ということなのだ。ここは新たな健康心臓の移植が必要。でも、それには周到な準備のための期間をとらねばならず、その手術待ちの間、患者は控えめな生活を送らねばならぬことになると思う。

でもおカネかけずに人生楽しむ方法など、幾らでもあるからね。筆者は、そう悲観してはいない。これまでの奢った価値観を変えればよいことだから。前から書いているように、リスク耐性が無い人は、無理して貯蓄から投資へなどと余計なことも考えないほうがいいよ。これからの新緑の季節、(筆者の第二の故郷)福島にでも行って、山菜採りをやったほうが精神衛生上もよろしい。ちなみに筆者は、山菜採り名人の(自称)師範代として、タラの芽採りにはいさかか自信があるのだ。

2009年