豊島逸夫の手帖

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マーケットの臨界点

2009年11月11日

いま、各市場を俯瞰すると気になる臨界点が三つある。

まず、日本人として最も身近に感じる臨界点が、JGB(日本国債)。今朝の日経朝刊の二つの見出しが雄弁に物語る臨界点。東京版5面「国の借金864兆円、 一人678万円、最大額更新」。いつまでも最大額更新が続くはずはない。とこかで臨界点が来る。同21面「10年債 買い手不在 鮮明、 大手銀 様子見、 地銀は買い疲れ感」。地銀とか郵貯とか庶民の預金で日本国債を買って買って、買い疲れた。これもそろそろ臨界点近しの感あり。なお、昨晩の米国債10年物の巨額入札は、無難にこなして順調な売れ行きであった。買い手がいくらでもつく米国債。ガイジン投資家にはとっくに見放され、頼みの国内機関投資家も買い疲れた日本国債。言葉が無い。

次の臨界点は中国。膨張し続ける外貨準備。ついに2兆2千億ドルを超えた。一昔前まで世界一だった日本を追い抜いたと思ったら、あっという間に倍の差をつけて独走中。でも、ここでも、外貨準備がこのまま急増しつづけるはずもない。どこかで臨界点が来る。引き金は、ドルのfree-fall=急落で、人民銀行が人民元安を支えられなくなった時か。

そして、金市場の投機的買い。NY金先物ネット買いポジションは膨張し続けて、史上最高の750トン。ここまでは売買回転が効き、投機家もじっくり売り時を見計らう心理的余裕がある。でも、間違っても買いポジションを何年もロールオーバー(引っ張る)する人たちではない。決算期がある参加者が多い。だから、どこかで必ず臨界点が来る。昨年の原油急騰が良い例である。ピークでは200ドル説が支配したが、臨界点は140ドルであった。

臨界点に達したあとの影響は、JGBが断トツにヤバイ。個人の貯蓄とか年金に後処理のツケが来る。中国の場合も、為替調整が急速に過ぎると、国内の過剰流動性が一気に収縮することでショック症状が起きやすい。クローリング・ペッグと言われるが、段階的に徐々に人民元を引き上げてゆく方法が成功すれば良いが。

それに比べれば、金市場の臨界点到達後は、短期的にはキツイかもしれないが、健全な調整とも言える。下値では、これまで模様眺めを決め込んできた長期投資家や実需が支えるという現物買いのサポートがあるからだ。原油のごとく140ドルが30ドル台にまで暴落するようなことにはならない。原油は、ラスト・リゾート(最後の頼み)として実物をじっくり持つということが物理的に出来ないし、結局、商品インデックス投資マネーの出入りに大きく左右される構図になっている。インド政府だって、外貨準備として原油を買うということはあり得ないものね。

さて、昨日告知した日経プラスワンセミナーですが、毎回筆者が悩むことは、初級者と中上級者向けに話のバランスをいかにとるかということです。そこで、今回は、会場に質問票のようなものを用意して、講演後、長丁場になるので、希望者だけに残ってもらって質問に答える、という形式にしたいと思っています。事務局にリクエスト中。
ただし、質問といっても、質問票にはみ出すくらいに詳細な内容では持て余すし、「日本はいつ沈没しますか。その時、金を持っていれば救われるでしょうか」という類のオタッキーなのも答えようがありません。その類には、親切に答えてくれる評論家なり著者の方々がおられますから、そちらでどうぞ。

でも、本欄読者には、金は持っていないけど、経済やマーケット全体を見る参考にしているという人たちも多いので、その方面の質問は歓迎します。ちなみに 来週発売の日経マネー1月号から、マクロ経済やマーケット全体について書く、2ページのレギュラーコラムを担当することになり、一回目を校了したところです。

セミナーに話は戻って、個人的には新日経本社ビル内で新装なった日経ホールがオペラも出来るレベルということで、オペラ好きとしては興味あります。日経CNBCスタジオも新装なってから、なんとメーク室まで出来てビックリ。でも、あの高層ビルのエレベーターの遅さと、迷路みたいな乗り継ぎはなんとかなりませんかね。当初は、あやうく本番に遅れるところでした。

2009年