2009年9月7日
2008年10月8日付け本欄「釘刺し役ジェフ」と題する原稿で、筆者が急騰する金価格に対して否定的な見解を連発していることを書いた。「金急騰」と騒がれるときに金を買うとロクなことはない、というのが筆者の一貫したスタンスである。むしろ「金の輝きが失せた」と言われる時こそ、買い時である。この持論は今回も変わらない。
釘刺しジェフの再登板である。995ドルにまで上がれば、実質的に1000ドルをつけたと同じこと。大台の1000ドルをつけたか否かより、もっと大事なことは、その高値圏が維持できるかということだろう。
先物主導でここまで来たが、NY先物買い残高(売りと買いの差し引き残高)は600トン近くまで膨張したまま。ドカ雪の新雪が雪っぴのごとく積り、いつ表層雪崩を起こしても不思議ではない。
一方、現物市場はと見れば、需給がジャブジャブである。1000ドル近くになれば、買い控えと売戻し(リサイクル)の両方が加速する。需給ファンダメンタルズの裏付けのない価格上昇は短命に終わるもの。仮にこのまま1000ドル突破して、なお価格高騰が続けば、後の反落局面がきつくなるだけのこと。いわゆる逆V字型の相場展開となるは必至。
今回の金急騰劇は、株、ドル、原油など他のマーケット全体が方向感に欠ける中で、金だけが突如上昇したことが特徴といえば特徴である。いわゆる市況の法則と言われるドル安、金高とか、株安、金高とかの逆相関関係が特に顕著に見られるわけでもない。
唯一、目につくことが原油、天然ガス、穀物などの投機的売買に規制がかかることを嫌ったマネーが金に流入していること。機関投資家サイドにおいて、コモディティー(商品)セクター内での運用配分のリアロケーション(見直し)が進行中だ。
本欄8月25日付けで、持ち高規制を嫌って商品ETF業者がETF在庫を減らしていることを書いた。それが、先週には、ドイツ銀の原油ETN閉鎖というようなケースにまで発展してきた。
金は原油、穀物と違って日常生活との接点が少ないので、金価格が上がって困る人が相対的に少ない。ゆえに規制がかかりにくい、という読みで原油から金にマネーがシフトしているわけだ。
また、現物の金を買うタイプの金ETFは現物の裏付けがあるが、金ETNで金リンク債を買うようなタイプとか金先物価格に連動するタイプはペーパーゴールドに投資するもので、投機的と判断されやすい、という相違点も押さえておく必要があろう。
なお、金市場内要因としては、1000ドル近辺で売る約束をしたコールオプションの売り手が、買い手の権利行使に備えて慌てて買い手当する動きも見られる。これも一種のショートカバーである。
結局のところ、8月28日付け本欄に書いた「株もドルも原油も金も、目先上がるときはショートカバー合戦の様相」という状況は変わっていない。ショートカバーラリーというやつである。
以上、今日は、虫の目で見たマーケットの短期見通しを書いた。なお、魚の目で見たマーケットの潮流は、引き続き上昇と見る。先日の日経CNBC出演のときに語ったが、年末までに瞬間タッチなら1100ドルも、という見方は変わっていない。金市場を取り巻くマクロ経済要因は不変である。
さて、週末は名古屋に出張。中日新聞のゴールドセミナーで講演。応募が500名近く、それも募集開始ほどなくして埋まったそうでビックリ。当日の250席もほとんど満員。これまで名古屋で何回も講演してきたけれど、応募はせいぜい200-300だったから倍増。金市場の裾野の広がりを実感。今週末は大阪で日経プラスワンフォーラムだけれど、事務局も強気に出て500名収容の会場を設定したそうな。これまで大阪では、まず多くて300名程度だったから、果たして、どうかな。