豊島逸夫の手帖

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投資から貯蓄へ

2009年1月14日

金融危機の影響で、マネーの流れが、政府、業界の思惑とは逆に投資から貯蓄へ流れている。日経でも銀行預金急増のニュースが流れていた。筆者に言わせれば、この"逆流"は当然の結果である。2008年4月11日付け"政府は貯蓄から投資へと言うけれど..."で、以下のように書いた。

(引用)
そういう人種(リスク耐性の弱い民族)に、政府は貯蓄から投資を勧めているわけで、これはどだい無理筋であろう。金融リテラシーという言葉を錦の御旗に、投資家教育が必要と説く。でもね、金融投資の知識が増えたからといって、民族のDNAが変わるわけではないのだよ。金融リテラシー説が正しければ、大学教授が最も儲けられるはずでしょ。

要は性格的にリスクが取れるか否かということに尽きる。一回損を出したところでパニックになって頭の中が真っ白になる人は、投資など考えないほうがよろしい。そこで、自分なりに冷静に対処できるキャラの人ならば、金融リテラシーを高めるためのセミナーに通うことにも大いに意義があろう。まずは、自分の性格判断をしたうえで、貯蓄の道を選ぶか、投資の道を選ぶかを決めるべき。その上で、貯蓄コースを選択したひとは、財産がそれほど増えないという前提で、生活水準を2段階くらい下げねばならない。鮨屋へ行ってもトロは我慢して赤味だけ食べるということだ。(マグロの本当のうま味は赤味にあることだし)。隣人が投資コースを選択し、大当たりして銀座の高級鮨屋に通うのを見ても動じてはいけない。投資コースには"忍者"になる可能性が常にあるのだから。いまや英語にもなったNINJA。これはNo Income, No Job, No Asset.=所得も仕事も資産もない"サブプライムに負けた投資家"の姿をニューヨーカーが洒落て表現したもの。

では、貯蓄コースの人には銀行預金しか手段はないのか、という質問も聞こえてくる。いや、株にも貯蓄コースはある。一昔前"あなたも株主"というテレビコマーシャルでデビューした"るい投=累積投資"。月々数万円ずつ株を買って行くコース。これが今になって再び注目され始めている。投資信託にも同様の"ドルコスト平均法"が適用できる。金には純金積立というお馴染みの商品が20年前から存在する。昨年から、急激に残高を増やしているのも時代の流れを象徴しているよう。要は、FP風に言えば、時間軸で購入を分散して、コツコツ蓄財すること。純金積立という商品が、世界中で日本だけでヒット商品になった、という事実も決して偶然ではないのだ。
(引用終わり)

資産運用とは自分の欲望との戦いである。一番危険なことは、皆が運用しているらしいのに自分は出遅れているとか、友人が儲けたので羨ましいという動機から、初心者が"投資の道"に入ることだ。(もっともこの節は、そんな儲け話もトンと聞かなくなったけどね)。

今の時代は、逆にプロは"運用しない"時代になっている。リスク回避の動きである。"おカネを遊ばせる"という日本語には、"儲けられる機会をみすみす逃してもったいない"というニュアンスがあるが、金融危機が一段落するまでは、"おカネにはしばらく遊んでいてもらって、自分も身の丈相応の範囲で遊ぶ"という姿勢が良いと思う。運用しないという決断も、資産運用の立派な手段なのだ。そもそもゼロ金利ということは、金利の概念の出発点に戻れば、事業を興してもほとんど儲からないから利息もゼロということなのだよ。

さて、明るい話題をひとつ。

WGCセミナーやCNBC金特番などでいつも志田日経編集委員と筆者の間でまとめ役を務めていてくれる池崎美盤キャスター(日経CNBC)が、めでたく結婚しました。先週土曜日に六本木ミッドタウンのホテル、リッツカールトンにて盛大かつ同ホテル始まって以来という4時間50分に及ぶ長時間披露宴が繰り広げられたのです。新郎は電通社員。新婦はテレビ西日本、NHKという経歴ゆえ、宴もオーディオビジュアルを駆使した演出でした。

思えば、昨年春に突然、彼女が筆者夫婦に会って欲しい人物がいると言い出し、四人で会食。人柄がホントに良いナイスガイで、筆者の御台所(みだい)様の厳しいチェックにも見事パスされ、その後、ゴールデンウイークには福島のゴルフ場へ四人で一緒に旅するまでになりました。新郎と筆者と二人で山採取りに入った際、さりげなくトゲのあるタラの芽の枝を引き寄せてくれたときに、こいつはいい奴だな と再確認しました。昨年8月には入籍していましたが、お日柄の関係で結婚式は1月までおあずけとなっていた次第。新郎の涙に、筆者の忘れていた(笑)新鮮な夫婦愛を感じました。お幸せに。(仕事の方も引き続き頼むぜ!)

2009年