豊島逸夫の手帖

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中東でも公的資金投入

2009年2月4日

金を通して世界を見ていると、中東では金流通の中継基地ドバイの動きに敏感になる。その、ドバイ。昨年夏まではサブプライム汚染の程度が低く、金融危機や信用収縮とは無縁の、独立した経済モデルを構築されたと思われていた。しかし、結果的には、地域のハブとして金融市場の整備、不動産開発が進んだこと自体が、今となってドバイ経済の足を引っ張っている。世界同時不況の波が中東にも及ぶや、開放化を進めたドバイが真っ先にヒットされたのだ。おきまりの不動産バブル崩壊。競争原理を導入したことにより、到る所に林立した超高層ビルやセブンスターホテルの多くが建設半ばして実質的頓挫。今や、ドバイのスカイラインには未完成の建物のシルエットが並ぶ。

象徴的な光景は、ドバイ空港の駐車場に乗り捨てられた数多くの高級車。欧米金融機関のドバイ支店などで働いていた欧米人が、次々にドバイを見切り帰国するにあたり、ローンを組んで購入した車を捨ててゆくのだそうだ。ドバイではローンの債務不履行には牢屋行きの刑罰が待っているから。

ドバイの経済成長率も目標の11%から4-6%に急激な下方修正。さらに8兆円近い対外債務(GDP比率100%を超える)の大半が、今年、返済期限を迎えるという。ドバイ発行債券のCDS(債務不履行スワップ)のコストも急騰している。そこで、ドバイが属するUAEは、国内銀行に対し3兆円相当の公的資金投入を決定。とくに、大手不動産金融会社を救済するという。さらに、同じUAEでも石油埋蔵量が集中し最もリッチなアブダビからの資金援助を受けることになりそうだ。ドバイは石油資源には恵まれないゆえに、サービス産業依存型経済を独自に構築する必要があったのだ。

しかし、ドバイとアブダビには歴史的軋轢があり、ドバイのプライドがアブダビの支援を受けることを潔しとしない風潮もある。水面下ではアブダビの政府系ファンド、ムバダラが動いているという。ムバダラについては、著書("金を通して世界を読む")194ページ、中東マネーの"多様化する投資先"にて説明した。"ムバダラと地域内ライバルであるドバイアルミ(DUBAL)とのジョイントベンチャーであるEMAL(エミレーツ アルミ)が世界最大級のアルミ精錬工場建設"と書いたが、それも今やリストラの波に晒されているという。

結局、原油急騰により生じた過剰流動性を、地域繁栄の象徴と見誤ってしまったのだね。

正月に中国広州レポートを書いたが、そこでも、昨年10月以降ぱったり経済が止まったという。ドバイも全く同様である。インドの金輸入も昨年秋以来、急激に鈍化している。わが日本だって、筆者の身近の例でも最寄駅前に並ぶタクシーの数が急増し始めたのが昨年秋からであったものね。世界同時不況ということをご当地の駅前でも身を持って感じるのだ。

そんなグルーバル経済の中で気になる動きは、米国に於ける保護主義の台頭。今朝の日経国際面に大きな記事で出ている。2008年11月17日本欄に、こう書いた。

(以下、引用)
金融危機後のマクロ経済は、一言で言って"縮小均衡"と見る。世界的景気後退の波の中で、ドーハラウンドが決裂したままということは、自由貿易による"拡大均衡"の道が断たれたことを意味する。その中で、各国がパイの奪い合い=自国通貨安による輸出増を願い、他国を踏み台にして自国は生き残ろうとする近隣窮乏化政策が幅を効かせる。
(引用終わり)

やはり出たかという感じの"バイ アメリカン"運動である。同国際面には"中国 家計貯蓄26%増"ともある。過小貯蓄の米国と過剰貯蓄の中国という国際経済不均衡問題が、金価格上昇の根源的マクロ経済要因とセミナーでもイラスト使って繰り返し述べてきたけれど、その傾向はますます加速しているようだ。

金市場については、スタンダードバンク支店長、池水雄一氏の通称ブルースレポートから引用させてもらいます。

(以下、引用)
「インドの金輸入量が激減」
The Bombay Bullion Association の発表によるとインドの1月の金の輸入量は、前年比90%のダウンとのことです。昨年1月が18トンであったのが、今年はわずか1.2トン。BBA会長の弁によると昨年11月と12月に輸入した分がまだ在庫として残っているため、とのこと。価格高騰のために需要が停滞しています。スクラップの売り戻しが増えていることも指摘されています。世界一の需要国であるインドがこんな状態では、Gold の900ドル台というのは維持困難だと思います。
(引用終わり)

なお、ブルースとジェフ(筆者の源氏名)のプロ二人が同方向を向くと、目先は逆方向に動くというジンクスも紹介しておきます(笑)。

2009年