2009年2月6日
UBSストラテジスト ジョンリード、豊島逸夫 対談抜粋(日経マネー2009年1月号より)。この対談は、2008年9月に京都で開催された世界最大の金国際会議LBMAの折りに、日経マネーにより企画されたものです。その内容を改めて読みなおしてみると、話しの鮮度が落ちるどころか、今の金市場を読むうえで正に勘どころをついていると思われるので、ここにその一部を抜粋して掲載します。
リード:(ユーロの寄り合い所帯のもろさについて)
(ユーロの)悪い例を挙げよう。欧州のリゾート地であるスペインは不動産が供給過剰となり不動産価格の急劇な下落に見舞われている。イタリアは国際競争力が落ち、輸入が増え輸出が減り、貿易収支が悪化している。
逆の良い例はドイツだ。財政黒字を保ちつつ労働コストは下がり生産性が上がっている。欧州では勝ち組と負け組がハッキリしている。しかし、ユーロは統合通貨なので、投資家に(勝ち組の通貨だけ買うといった)選択の余地がない。発足当時は、ユーロは各国の通貨を統合したことがメリットといわれていたが、今はデメリットの部分が目立っている。
それなら通貨に投資するよりも金を買ったほうが良いのではないかという方向へ、欧州の投資家の気持ちが向かっている。
豊島:基軸通貨としてドルもユーロも力不足ということになると通貨大空位時代ともいわれる。そもそも主要国が"近隣窮乏化政策"-つまり自国の通貨の価値をおとしめて輸出増大を図り、隣国を踏み台にして自国経済浮揚をもくろむということは、通貨そのものに対する信認を自ら否定しているようなものだ。そこで"金本位制"という、これまた極端な議論も出てくる。
リード:英国でも金本位制をあおるような本は多い。インフレを恐れる投資家の不安心理が、そういう本を求めているのではないか。
豊島:確かに金本位制は、金融節度を維持しインフレにはなりにくい制度であるが、経済成長の必要な通貨を機動的に供給できないという致命的な欠陥を抱える。
リード:金本位制が終焉をむかえた71年のニクソンショック以降、金本位制から米ドル本位制に変わった。現在はその振り子が過度に振れたところにある。だから当然、振り子を戻そうという動きが出てくるが、誰だって金本位制まで戻るとは思っていない。
どの程度まで振れが戻るのかは、各国通貨当局のインフレに対する姿勢によって変わるだろう。金融当局が節度を欠き、インフレの度合いがますます強まると、その分振り子は金本位制の方向に向かうことになる。
豊島:金本位制はいわば性悪説に基づいた制度で、現状の通貨制度は性善説に基づいた制度だ。金融政策の舵取りをするのは人間である。その英知を信じることが出来なければ、独自の価値を持つ金による信用の"補強"も必要であろう。サブプライムにより人間の強欲な愚かさが露呈した今、そこで金本位制という話も出るのだろうが、もちろん71年以前に戻ることはない。ただ、通貨の価値の一部を補強する役割を金が演じることは十分に考えられよう。
リード:金融機関同士がお互いを信用しなくなっている。疑心暗鬼になっている。このことは世の中が"人間は性善説に基づかない生き物である"という方向に向かっているインジケーターと解釈できるだろう。今のシステムは人間同士の信頼に大きく依存しているが、性善説が成り立たないというのなら、人間に頼らない仕組みをつくる必要があるのではないか。
(引用終わり)
さて、リード氏の属するUBSに続いて、ゴールドマンサックスも700ドルから1000ドルへ予測をひっくり返した。これでGFMS、UBS、そしてGSと、主要3社が全く同じ700 → 1000への予測転換。こんなことも筆者の記憶にない事態だ。
最後に、"グルッチー"と題する書評書き込みがアマゾンにありました。グルッチーとはドイツ語のスイス訛りで、こんにちは、という意味。スイス人と目が合えば、グルッチー、である。"御無沙汰"と書いてあるのでスイス銀行時代の友人か、あるいはチューリッヒ駐在経験者か。チューリッヒの銀座四丁目にあたるパラデプラッツに面して、スイス銀行本店と有名なチョコレートショップのシュプルングリがあり、トレーディングルームからシュプルングリの店が良く見えました。なつかしい。どなたかまだ特定できませんが、アマゾン書評欄がブログで言えば書き込みの交流の場と化した感じですね(笑)。今でも 筆者は欧州出張の旅程でチューリッヒに立ち寄ると なぜかホッとするのですよ。勝手知ったる街で知り合いも多いせいでしょうか。(WGC本部のある)ロンドンよりチューリッヒのほうが好きです。GFMSのポールには"ジェフがロンドンに来ても48時間以上滞在した試しがない"と言われていますが...。