2009年9月3日
9月に入り、金価格がいきなり急騰中。すでに990ドル近辺まで上昇し、いきなり1000ドルが視野に入ってきた。金市場の要因としては下げ要因が目立つのに、なぜ上がったか?
まず、今の市場環境から。金価格上昇をダブルエンジンで牽引してきたインドと金ETFが失速してきた矢先。
―インドの需要は低迷から抜けきれず。8月の輸入量もわずか10数トンで通年の1/4程度。こういう減少幅が年初から続いている。
―金ETF残高も7月から頭打ち傾向が鮮明。ただし金ETFには短期資金も流入しているので、マーケットのセンチメントが変わると、この数字もすぐに変わるが。すでに昨日は微増に転じている。
―高値圏ではリサイクル還流が急増する構図に変わりなし。
つまりコモディティーとして金を見る限り、需給は緩んでいる。とくに950ドル以上を買い上げる理由は見当たらない。結局、昨晩の金急騰の要因はグローバルなマネーの流れにある。具体的には株がマクロ経済の良いニュースに反応しなくなったことで株投資家が焦れてきた。加えて、9月は例年株が下がる月であることで気味悪がっている。(Sell in May と同じように、Sell in Septemberとも言われるようになった。いわゆるマーケットのアノマリーだが。)
プロは「景気回復」の噂で株を買い、「景気回復を示唆する経済データ発表」のニュースで売る戦術にいち早く転じた。(だからこそ、先週金曜日本欄に書いたように、その裏をかかれたようなAIG株急騰劇があったわけだ。多くのプロがショート=カラ売りに走ったところで、その手仕舞い買いが殺到した。ちなみに空売りの買い戻しによる急騰ゆえ持続性はなく、今週は早速売られて急落。)
株式市場が調整モードに入ると、これまで無視されてきた潜在的悪材料が蒸し返される。とくに次にはじけるバブル(next shoes to drop)は商業用不動産(ショッピングモール建設など)という、かなり陳腐化したはずの材料が改めて悲観的に語られる。たしかに高値から30-50%は下落しているので、バブル崩壊というよりスローモーションでバブルが弾けている感じだが。
そして、商業用不動産に大きく貸し込んでいる米地銀に、経営不安説が流れる。これが金融不安再燃を連想させ、VIX(価格変動インデックス)が29前後まで上がっていた。マーケットには、再び「質への逃避」という言葉が流れ、米国債が買われてきた。(10年もの米国債の利回りが一時3.8%まで上昇していたが、3.3%まで下がってきている。)
それから、昨晩の金急騰劇の特徴は、原油プラチナなど商品全体は上がらず、金だけが独歩高であること。「雇用なき回復」では消費も回復せず、実需は増えないが、企業破たんリスク(信用リスク)は強まる傾向になるので資産としての金は買われるわけだ。
久しぶりに米国経済チャンネルを3時間ほど流し見ていたが、株式番組でしきりに「株と金の逆相関関係が戻った」とか、「これまで上がるも下がるも一緒だったが、ここにきて古典的な関係になった」という指摘が聞かれた。
他方、もう一つの古典的逆相関関係があるドルの影響だが、これはドル円でこそ円高、ドル安が加速したものの、対ユーロでは1.42で、さほどドル安が進行している感じはない。長期的にドルと金の逆相関が変わったとは全く思わないが、昨晩に関する限りではドル安=金高を論じるには抵抗があるな。
思わず苦笑したのは、Fast Moneyというデイトレーダー向けの一時間番組。(これ結構面白くて、よく見ている。売買頻度と同じくらい喋りも早いので、元祖バイリンおじさんも、ついてゆけないことがあるほどだが)。この番組のレギュラー陣のヘッジファンドのお兄さんは、基本的にアンチゴールドで通しているのだが、曰く"Nobody talked about gold until 24 hours ago."(「24時間前までは、誰も金など話題にしなかったのに。」というボヤキ。おいおい、それはお兄さんに聞く気がなかっただけだろ、と思ったけどね。
やっぱり、株の世界では金が上がると困る人が多いわけだ。
話は飛ぶけど、先週の某大手一般紙の株式面に金についての説明があって、「金にはリスクがあり、株のように安心はできない。リスク分散を『一概に否定しない』が」というくだりがあり、これにも苦笑してしまった。おいおい、株って安心なのかい。一概に否定しないが、という表現に、「いやいや」というニュアンスが鮮明に出ていると感じたものだ。
株と金と、もう少し仲良くなったほうがいいんじゃないかな。ポートフォリオの世界では、結局、持ちつ持たれつなのだから。
なお、同じ番組の金についてのコメントで、"stay with gold"とか"hold on to gold"という類の表現も多く使われていた。アンチゴールドではない連中は、金をロング(買い持ち)しているデイトレーダーたちに、「持ち続けろ」とアドバイスしているわけだ。SPDRゴールドシェアのプットオプション買いが増加していることは、買い持ちのヘッジとして買われているようで、基本的には売る気がないようだ。NY金先物の買い残高も、500トン台の高水準で一向に減らない。金市場に流入するマネーも、以前よりかなり我慢強くなってきた。某レギュラー陣の一人が、ぽつり、一言「ほかに行くアテもないし」と呟いていたのが印象的。これが本音だね。
目先は、今週金曜日の米雇用統計を見たいと思う。筆者個人は、どうも生来のへそ曲りで、素直に今回の上げには乗る気にはならない。
なお、今日の日経関東版のスポーツ面に日経プラスワンフォーラム大阪(9月12日開催)の広告が出ているけど、タイミング的には、にわかに面白いタイミングになってきた。話したいことは山ほどある時期である。