豊島逸夫の手帖

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ウイットニー・ラリーも目標達成感

2009年10月14日

四半期に一度の米企業決算発表の週(earnings week)は、告白の週(confession week)とも言われるが、今週は大手投資銀行の決算が相次ぐ。そこで、いまや恒例となった、人気銀行株アナリスト、メレディス・ウイット二―女史のご託宣が昨晩のNY株式市場をまたもや動かした。(彼女はオッペンハイマー勤務時代に、いち早くサブプライムに警報を発し一躍注目されるようになった、という背景がある。いまは独立。)

そのご託宣は、ゴールドマン・サックス株を、買い推奨(buy)から中立(neutral)に引き下げるというもの。これで金融株が売られた。同株は、「鉱山のカナリア」と比喩される。

鉱山労働者が鉱山内で籠に入れたカナリアを持ち歩くのは、有毒ガスにカナリアがいち早く反応するため。ちなみに、オウムのサティアンに警察隊が突入したときも、ガス検知のために、先頭に立つ警察官が籠のカナリアを持っていた。代表的な金融株であるゴールドマンの決算結果は、まさに鉱山のカナリアなのだ。

ウイット二―女史の見立ては、ゴールドマン株のファンダメンタルズは評価している。銀行株一般にも、現在の株価はfair value(公正な評価)だとする。しかし、彼女がゴールドマンを買い推奨した2009年7月13日から同株は既に30%も上がってしまった。だから、彼女は、前期ほど銀行株に強気にはなれないわと言っているのだ。Greedy=あまり鼻の下長くしても詮無いことゆえ、いただけるものは、さっさといただいたら、とアドバイスしているわけ。

まぁ、筆者が見るに、失業率が二桁に迫る状況下で、消費者金融の返済は滞り、銀行の本業は決して楽観を許さない。FRBからのタダ同然の金利による資金調達で(一般企業で言えば仕入れ価格がタダ同然となる手厚い保護を受けて)利益を上げているに過ぎない。従って、JPモルガンなど厚い引当金を積んでいるところ以外は、まだ安心できないと思うのだ。

さらに金融株に限らず、米企業業績を見るポイントは、以前から本欄で繰り返していることだが、リストラとかコストカットによらず本業の収益が伸びているかどうかの点に尽きる。告白の週の先陣を切ったアルコアの決算の内容は、相変わらずコストカットであった。

さて、鉱山のカナリアの比喩は、昨晩の米経済チャンネルでゴールドマン以外にも、もう一回使われていた。それが、ゴールドである。Fiat currency(ドル、ユーロ、円などの法定通貨)の異常をゴールドが感知して反応している、という趣旨であった。

そしてNY金価格は、またもや史上最高値更新で1070ドル台に迫る。史上最高という言葉も、もはや陳腐化してしまった。昨晩はドルの対ユーロが当面のレンジを上抜け、1.48台に突入したことがキッカケ。これで1.50の大台に乗ると、1100ドルということになろうが、明らかに過熱化している。昨日は盟友GFMSのポール ウオーカーCEOが来日講演して、「需給から完全に乖離している相場はいずれ崩れる」と、超弱気の発言をしていた。

夜、彼とプライベートな夕食の席でも相場の話になったのだが、筆者が言ったことは、「俺も弱気だが、大崩れは無いと思うよ。現場の需給も大事だが、金融出身の俺は、やはりマクロ経済要因を重く見るな。原油から金への機関投資家マネーのシフトも、データに守秘性があるので需給統計には出にくいが、間違いなく現在進行中だし。」

まぁ、今の高値が、大手鉱山会社のヘッジ買い戻しとか、大手ヘッジファンドの買いとか、一過性の要因で支えられているから、それが一巡したときが問題という点では見方が一致したけど。

最後に、昨日は名古屋の商品取引所が新たに金先物取引を始めたというニュースについて、いろいろ聞かれた。筆者のコメント。「私は前原大臣ではないが、ハブはひとつだけあれば良い。羽田(本件では八丁堀)だけで充分すぎるくらい足りると思います。」

2009年