豊島逸夫の手帖

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ヘッジファンドヒーローのお薦めトレード

2009年2月2日

週末は冬季恒例のスキー&温泉にまたもや興じ、帰宅後はこれまた恒例の週末拾い読み、というか今回は拾い見。DVDにとっておいた米国経済チャンネルの報道を早回しでサーチして、面白そうな部分だけじっくり視聴する。

そこで興味深かったのは、今や伝説上のヘッジファンドとなっているタイガー マネジメント ファンドの創設者で一世を風靡したジュリアン ロバートソン氏と、債券王と言われるビル グロス(ピムコ社)の対談。アンカーはCNBCのアーン バネット嬢。スタンフォード大学出身の才媛で、自ら議論に加わり、対談の相手たちと口角泡飛ばしてやりあうところが実に面白い。

ロバートソンが今お薦めのトレードと聞かれて即座に答えたのが、"米国債のプット オプション購入"。米国債バブルはいずれはじけ暴落して、長期債の利回りは控えめに見て7%に急騰するという大胆な予測のもとに、今のうちに米国債を売る権利を買っておけということである。

貴方はどう思うとグロス氏が聞かれて、"賛成だね。自分もドル長期金利はいずれ4-5%程度にまでは反騰すると見ているから。水平線上にはインフレが見えるから、それに対する運用手法ということだ。"

やっぱりプロが考えていることは同じだなと感じたやりとりであった。

さて、足元の金価格だが、先週後半に一時870ドルまで急落した時点では先安論が支配したが、その直後からの切り返しがなんとも力強かった。一気に48時間で一直線に930ドル近くまで急騰。その間、外為市場ではユーロ安のドル高。"市場の法則"に反した値動きである。

今回の特徴は一言で言って、ユーロ建て金価格が過去最高値をつける過程でロンドン市場主導の上げ。とくに欧州の投資家が金ETFを大量購入した。それにNYの先物もちょうちん付けて、やや遅れて参入。買いを増幅した。900ドルを越してからは、先安と見てカラ売っていたプロの見切り売り、あるいはストップロスの損切りが上げの推進力になっている。その間、アジア市場は春節で不参加。

そこで、問題は中国が930ドルを買ってくるか否か。インドは一月の金輸入量が前年の1/10以下という報道からも分かるように、金需要は不活発。新興国全般にさえない。ただ、それ以上に欧米の投資家が、ドルもユーロも円も信じられなーい、という感覚で金を買っているということだ。

"欧米の買い 対 新興国の売り"という構図である。欧米の買いはワンツーでダウンを奪うほどの短期的威力あり。対する新興国の売り(特にリサイクルの売り戻し)はボディーブローのようにジワジワ効く。このあたりが、筆者がいまいち足元で強気にのれない根拠かな。3ヶ月後は、今の水準より安くなっていると思う。ただし、断っておくが長期上昇トレンド不変という見方に、いささかのブレもないよ。

さて、土曜日に横浜パシフィコで開催された3000人の個人投資家セミナーは興味深かった。筆者以外の講師は全て株、債券の世界の人たちゆえ、そこで"株、債券がダメだから金にマネー流入"と語るのは、まさにアウエーのゲームの感覚。なおも、冷静に考えると、金は利息とか配当を生まない"不毛の資産"であるから、他のスピーカーがいかにこの難しい時期にリターンを捻出するかを論じるとき、聴衆の多くには、それをあたかも否定するような金の議論は相当抵抗を感じる話だと思う。

そこで、筆者は"株は攻め、金は守り"というスタンスで、金に関して投資という概念で臨むよりコツコツ貯蓄という感覚で位置づけるべき"と論じるのだが、これまた証券界のスローガン"貯蓄から投資へ"とは正反対の議論ゆえ、どうも浮いてしまうね。

とはいえ、顧客からの要望で、好評につき、近々、金についてのネットセミナー第三弾を企画中という楽天証券外国株式事業部の新井党さん(彼はETF全般の記事では頻繁に出てくる存在)のコメントもありました。この形式は筆者も大好きで、ネットを介すると参加者が遠慮なくズバズバとコメントや質問をリアルタイムのチャットで入れてくる臨場感が堪りません。

なお著書の書評が先週の東洋経済に出ましたが、ウエブ上でも公開されています。
http://www.toyokeizai.net/life/review/detail/AC/7f1d37442c78bcd8ed100f7c680cf917/ (現在公開されていません)

新宿紀伊國屋とか丸の内オアゾの丸善では3列、5列と陳列板付きでかなり積まれる存在になりました。これまでの"反応の早い"ネット系中心の読者層限定から、コアの一般読者層に浸透してきた実感があります。

2009年