豊島逸夫の手帖

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中国がインドを大差で抜き世界一の金需要国へ

2009年5月21日

今朝の日経朝刊でも報道されているが、中国が2009年1-3月期の四半期ではあるが、世界最大の金需要国になった。それも大差で。これまで金需要量ではインドが年間600トン前後で、二位の中国はその半分の300トン前後であった。ところが、今年1-3月期は、インドが前年同期比マイナス83%=17.7トンに激減したにもかかわらず、中国はプラス2%の105.2トンを記録。高値警戒感と新興国経済成長鈍化という逆風に対して、打たれ強い中国と脆いインドの力の差を見せつけた感じだ。今後、政局安定が期待されるインドが抜き返すかどうか。ちっとしたデッドヒートの一位争いになりそう。

そして、筆者がじつは最も驚いた数字が欧州における投資需要の激増である。欧州全体で、前年同期比615%増の122トンを記録。とくにドイツ59トン、スイス39トンが国別では突出している。欧州の投資需要といえば2008年前半までは数トンの規模であったが、同年7-9月期に64トン、10-12月期には152トンと倍々の急ピッチで増加していた。正直、どこまで続くかと思っていたのだが、今年に入っても高水準を維持していたわけだ。

とくに2009年1-3月期は、金価格が1000ドルを示現し、期間平均価格も908.41ドルに急騰したなかで(2008年10-12月期は794.76ドル)、高値圏を買い進んだのだ。同じ高値圏でインドの投資需要はマイナス17トン。つまり売戻しのほうが多かった。ここに(中国を除く)新興国売り 対 先進国買いの構図が鮮明に出ている。

欧州内で金需要がドイツ、スイスに集中しているのは、両国とも堅固な金融制度を誇ってきたのがサブプライムで一転、その脆弱ぶりを露呈したためであろう。そして両国とも個人投資家の間では伝統的な金貨と金口座が人気である。

今回発表された最新金需給四季報(2009年1-3月期)の詳細を以下にまとめておく。

―需要セクター別に見ると、宝飾需要が352トン(マイナス26%)、投資需要が711トン、工業用需要が80トン(マイナス31%)。金需要と言えば、宝飾需要が8割近くと言われてきたが、昨年から投資需要急増、宝飾需要激減傾向が加速し、今期は大差の逆転である。この傾向は当分続きそう。

―その投資需要の内訳も興味深い。なんといっても金ETFが465トン(プラス540%)でダントツのトップ。次いで金口座89トン、金貨72トンなどが続く。唯一減少したのが金地金でマイナス33トン。インド、中東などで大量に売り戻されたためだ。先進国中心の金貨需要がプラス154%と急伸したことと比較すると対照的である。ここでも新興国売り 対 先進国買いの構図が見られる。

―さらに時系列で主要国、地域の宝飾、投資需要の推移を見てみよう。

  2008年 2009年
  Q1    Q2   Q3   Q4    Q1
 インド  宝飾 73.0 127.0 193.0 108.6 34.7
 投資 34.2 48.1 77.8 51.3 -17.0
 中国  宝飾 86.6 68.7 86.3 85.1 89.1
 投資 16.7 11.7 20.6 16.9 16.1
 中東  宝飾 66.5 81.9 103.8 65.7 48.2
 投資 5.7 5.5 7.2 10.1 4.1
 米国  宝飾 39.5 34.0 47.1 67.5 27.8
 投資 8.7 12.1 21.5 36.6 27.4
 欧州  宝飾 - - - - -
 投資 17.1 9.1 64.2 152.3 122.0

―最後に供給サイド。新産金560トン(プラス3%)、公的売却35トン(マイナス54%)、リサイクル還流558トン(プラス55%)。ここでは中銀売却の激減とリサイクルの急増が注目される。とくにリサイクルは今後価格上昇に比例して加速度的に増えることが予想され、価格上昇スピードにブレーキをかけること必至である。対して、1990年代に金価格下落の最大要因とされた中銀金売却は沈静化し、逆に中国のように公的金準備を増やす動きのほうが相場の材料となろう。中国の後を追って公的購入に踏み切るのはロシアか中東のどこかの国か。それから、金鉱山のヘッジ売りの買い戻しは完全に一巡した。今期は買い戻しがわずか10トン(前年同期は129トンもあった)。ヘッジ売り残高もピークの3000トンから500トンを割り込む水準まで減少している。今後、材料になることは当面あるまい。

というわけで激変する金需給の景色。中国が年間ベースで生産、消費の両面において世界一となる日も近そう。加えて中国は政府保有金も急増させているわけで、いやはや恐るべし中国だね。筆者の中国出張もますます増えそう。そして奥深い中華料理の世界にますますはまりそう。(笑)

なお、今週末土曜日は北九州でセミナー講演します。
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300-500名規模の日経プラスワンセミナーとは異なり、教室での講義みたいな感じなので、聴衆との距離も近く、これはこれで独特の雰囲気があります。

2009年