豊島逸夫の手帖

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勝ち誇ったかのようなサルコジ

2009年5月14日

2日更新しなかったが、その間の48時間、頭はフル回転しっぱなし状態。密度が濃かったので、1週間くらい間隔を空けたような感じだ。

この数日、NYよりロンドンの連中との電話会議が多かったので、自然な成り行きで筆者の視点も欧州に向いている。そこで感じることは、フランス流の政府介入型経済が見直され、英国流の規制撤廃、自由競争型経済が落ち目なことだ。今回のサブプラ不況にしても、フランスは、米国、英国、ドイツ、日本などと比べると、まぁまぁ善戦していると言える。労働者保護が厚いから失業者の増加ペースも他国より緩い。高福祉社会だから、失業者への援助も充実している。健康保険制度の質も高い。

対して、欧州の規制撤廃の進行度が遅いとこれまで非難してきた米国、英国のアングロサクソン陣営が、今や続々と規制を導入している。銀行国有化、先物取引規制、金融機関更にヘッジファンドに対する監視強化などなど枚挙にいとまがない。そしてFRBもBOE(イングランド銀行)もバランスシートを膨張させ、民のリスクを官が引き受ける状況が加速している。

住宅、不動産バブルにしても、米国と英国に集中し、フランスを始め欧州大陸諸国では(スペインを除き)軽微であった。こうなると、サルコジのとんがった鼻がますます高くなるのも頷ける。

しかし。しかし、である。今後、経済が回復基調になったとき、また形勢は逆転するだろう。政府介入型経済は、民間のイノベーションを損ねる。激変する経済環境に対する対応も鈍い。労働者の保護が厚く、容易には解雇されないということは、経営者の新規雇用意欲を減退させる。だから、経済回復軌道にいち早く乗れるのは、やはり規制撤廃型経済である。

それから、フランスとイギリスの中間に位置するのがドイツ。輸出依存型経済なので、自由貿易競争の中で鍛えられ、コスト意識は強く、国際競争力もユーロ圏では群を抜く。ワイマール時代のハイパーインフレを経験した国ゆえ、財政規律も厳しい。しかし、輸出依存度が余りに強いので、今回の世界同時不況に際しては最大級のダメージを受けた。

また、ドイツは、これまで常にウオールストリート型の金融システムとは一線を画し、産業界と銀行界が共同戦線を張り、"株式会社ドイツ商会"とも言える重商主義路線を採って来た。しかし、その共同戦線は癒着を生み、サブプライムへの対応も後手に回り、ドイツの金融機関の体質の脆弱さも浮き彫りにされた。要は、銀行の経営に隠然たる影響力を持つ産業界は、金融センスに欠け、サブプラ問題のやばさに気づくのが遅かったのである。

さて、足元のマーケット全般だが、これまで本欄で使ってきたキーワードをまとめつつ概観してみよう。

Less worse, less bad - 経済悪化の速度が鈍化した。悪さ加減が改善した。

縮小均衡 - これも本欄ではお馴染みのキーワードだが、今朝の日経経済面にも"世界経済 縮小均衡鮮明に。ヒト モノ カネの動き鈍る"という記事。

Hopeからreal evidenceへ - 株も商品も超大型財政出動、中央銀行による大量資金供給を当て込んで経済回復の期待感で買われたが、今後は、その期待感の現実的証(あかし)をshow meというショーミー相場になる。

Sell in May and go away - 足元のNY株は、急反騰したところで、利益確定売りを入れ、いただけるものはいただいて逃げようという、正にsell and go awayモード。かたや金は、いったん急落したものの、直ぐに回復してきた。でも朝青龍のつり出しみたいに、いったん持ち上げておいて、あとでドスンという可能性が残る。

米国債バブル - 2月2日付け本欄"ヘッジファンドヒーローのお奨めトレード"で、ジュリアンロバートソンやビルグロスが米国債プットオプションを奨めていると書いたが、彼らのアドバイスは大当たりだったね。やはり市場は米国債大量発行を消化しきれず、米国債は下落。10年もの利回りは3%超え。すでにかなり食いすぎ状態の胃袋なのに、これからさらに食べて消化せねばならぬわけで、大田胃酸を飲んで解決する問題ではない。目先はデフレ感が強まるが、10年間の長期にわたりアンクルサム(米国政府)におカネを貸すとなると、インフレもかなり心配だから、それなりの金利を要求するという投資家心理が読める。

ドル、ユーロ、円の弱さ比べの三つ巴 ― 足元で日々の外為市場の動きをきれいに説明することは不可能だし、意味がない。無理やりコメント求められる専門家の解説にしても、結局とってつけたような後講釈になる。一番有力な手がかりは、外為市場関係者の見方がドル安かドル高か同方向に8割がた揃ったとき。そこが反転への転換点となろう。Reverse indicator、日本語で言えば反面教師というところかな。そういえば、一読者の方が、あっけらかんと"豊島さんのメディア登場回数が急増すると、金は売りだと思ってます"だと。参った!まぁ、お役に立てて光栄です。

2009年