豊島逸夫の手帖

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VIVA! ブラジル

2009年10月5日

ブラジルになったねぇ。オリンピックの話だけど。経済的に見れば、ブラジルはBRICsの中では、なんとなく存在感の薄い国であった。しかし、ロシアと並ぶ資源生産国。広大な国土と豊富な水資源をバックに、とくに穀物生産は世界トップクラス。世界一の輸出量を誇る産物としては、砂糖、珈琲、家畜。同第二位が大豆。第三位には、とうもろこし。メタル部門では、Vale(ヴァ―レ)という資源メジャーが有名。

金融市場の観点から見れば、国内資本市場が未発達で、国際化も遅れ、サブプライム関連商品を買いたくてもアクセスできないという事情があったので、結果的にサブプライム・ウイルスの汚染度は低かった。故に、サブプライムからの立ち直りも早かったとされる。しかし、金融危機の中で株価も暴落した時期もあった。

世界的信用不安の波も、ジワジワとブラジル国内に及んでいる。融資を受けられない農民が借金返済のために土地やトラクターを売り払うというような例が珍しくない。中小企業が多く細分化された業態なので、業界内の統合も進行中だ。アマゾン流域などでは、産業の環境に与える影響も問題視されている。

さらに金融関連では、元来、市場参加者の財務体質がぜい弱で、カウンター・パーティー・リスク(取引相手の債務不履行リスク)が無視できない状況が続いたことが、結果的にマーケットの情報開示などリスク管理導入を早めた。サブプライム以前から、いち早く市場の内部強化を進めていたのだ。例えば、取引所では、ブローカーが顧客ごとの売買を各取引ごとに情報開示することが求められる。今や、ブラジルの証券取引所は世界で第四位の規模(マーケットバリュー)になった。

銀行の自己資本比率もBISのガイドラインである8%以上に比し、ブラジルは最低でも11%、平均では18%に達する。しかし、問題点としては、クレジットカードや消費者金融の利息が150%を超えることが象徴しているのだが、銀行のスプレッド(融資先から受け取る利息と預金者に支払う利息の差)が異常に拡大したままであること。市中の銀行が支払い準備として中央銀行に預ける準備預金が高率であることなどが原因とされる。結果的には、その準備預金が、金融危機の際に中央銀行による緊急流動性投入に利用されたことで活用はされたと言えるのではあるが。

政治的には、賄賂などの腐敗が当たり前とされるような土壌があるが、最近は選挙民も徐々に情報開示を求め始めていることも確かだ。現大統領ルーラ氏はカリスマ的人気で国民を引っ張ってきたが、すでに二期目で憲法上三期目は許されない。2010年10月には次の大統領選挙がある。その彼の後継者に関する不透明感が政治的には大きな問題であろう。

人種的にも、アフリカから奴隷として連れてこられたという歴史を持つ黒人層の貧困問題が根深い。

しかし、今回のオリンピック誘致で最も期待されることは、これまで立ち遅れてきた国内インフラ整備が一気に進むことである。元来カーニバルのようにノリの良い国民性があるから、オリンピックを起爆剤に、経済の第二弾ロケットがうまく点火すれば経済大国への道も決して夢ではなかろう。

実は筆者は個人的に南米と縁がある。祖父がポルトガル語の教鞭を取り、その後、商社で現地の貿易関連に従事した。そこで生まれた父は、ブエノスアイレスで生まれたので、頭文字のブを取って武治郎。伯父はサンパウロで生まれたので、聖パオロの頭文字を取って聖太郎と名付けられた。祖母から、その時代に喜望峰経由で南米に赴任した苦労話などよく聞かされたものだ。ただ、筆者がリオに出張した際に、空港からホテルへのタクシーが居眠り運転でガードレールに激突するという交通事故に遭ったので、その後、南米に出向く気にはなれないでいる。

さてさて、足元の金市場は先週金曜の雇用統計直後に986ドルまで急落後、一時間で1000ドルの大台まで急騰するという、正にジェットコースター相場を演じた。ホントに、下では口開けて待っている人たちが多いのだね。高値圏ではポールソンなどのヘッジファンドが利益確定の売りを入れ、安値圏では鉱山会社がヘッジの買い戻しを入れるというような構造かな。

新興国の実需筋も、一向に下がらないので、徐々に、やれやれとあきらめ顔で買いを入れ始めている。

目先は、やはりドル安の裏返しの金高ゆえ、対ユーロでドルが1.48を超えるかどうかが焦点。

雇用など実体経済悪化に対して、オバマが追加的景気浮揚策を講じるか否かも重要な問題。今週は大型の米国債入札も控える。財政規律と景気浮揚の狭間で微妙な舵取りを迫られる現政権にとっては正念場である。何度も本欄で書いてきたが、オバマ、バーナンキの経済政策運営の手腕を信じられれば金は売り。信じられなければ金は買い。

市場の見方は、長期的には上昇を見込む人たちが圧倒的に多いが、短期の調整局面については意見が分かれる。筆者は短期弱気、長期強気のスタンスに変化なし。異常に膨れ上がったNY先物の買い残高が、雪っぴのように見え、表層雪崩警報発令中である。

2009年