豊島逸夫の手帖

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デカプリオかリカちゃんか パート2

2009年6月9日

今日は、昨年1月29日付け首題の原稿の続編。デカプリオとはデカプリング(新興国と先進国の経済非連動説)の俗称。リカちゃんとはリカプリング(同 連動説)のこと。昨年この原稿を書いた時点では、デカプリオ人気が後退し、リカちゃん支持が支配的になっていた。結局、米国経済がクシャミすれば中国経済も風邪ひくのだと。

それが、今年に入って、とくに最近は"リカプリオ"登場とでもいえようか、中国経済が米国景気回復の兆しとタイミングを同じくして、独自の経済成長路線に乗りそうな様相を見せている。とくに、先進国に先駆けて50兆円規模の超大型財政出動に踏み切ったこと(財政赤字の制約が先進国に比し緩く、景気浮揚のための財政金融政策の懐が深いこと)が、内需主導の経済回復を連想させる。トップダウンで銀行にカネ貸せと命令すれば、直ちに銀行が融資を急増させるという構造も立ち直りのスピードを早める。経済成長率も今年1-3月の6.1%で底を打ち、公共工事などが今期以降は押し上げ役として働くであろう。

ただし、地域ごとの経済成長率はマダラ模様で、上海は3.1%まで減速に対し、内陸部の大都市では9-10%も見られる。要は、すでに高速道路も空港も充分に建設されたところと、インフラはこれからのところとの違いだね。

公共工事主導の景気回復は、結局、設備過剰の結果を招く可能性もある。肝心の消費も、年金制度などの社会福祉のセフティーネットがまだ不備であり、将来への不安が消費を抑制させる状況に変わりは無い。

総じて、リカプリオ君は、デカプリオほどの迫力はなくとも、リカちゃん程度の人気は期待できそう。中国は世界経済の救世主となるほどのパワーはなくとも、自国経済を回復させるには充分の力がある=China cannot save the world, but can save themselves.以前本欄に書いたこの言葉が、いまだに一番説得力があるようだ。

話はガラッと変わって、リスクマネーが動き始めたことの象徴的な数字をひとつ。5月のヘッジファンドのパフォーマンスがプラス5.23%と、2000年2月以来のハイリターンを見せた。月別の推移を見ると、
2月 -1.21%
3月 +1.69%
4月 +3.61%
5月 +5.23%
6月には、ヘッジファンドへの純資金流入もプラスに転じそう。プラス5.23%の内訳だが、とくにエネルギー、素材関連がプラス9.64%、新興国関連がプラス9.74%と牽引役になっている。総じて依然苦境に立つヘッジファンド業界だが、希望の灯が見えてきた兆候も見える。

足元のマーケットの焦点は、昨日述べたドル高。いったい誰が"利上げ予測"を言い始めたのか。魔女狩りをしても分からん。もっともらしい議論で、市場参加者の虚を突くタイミングだったから、この"噂"は効いたね。ドル売り、金買いのポジションが膨らんだところで、プロの多くが虎視眈々と売り逃げる機会を狙っていた、まさにそのときに、この説が市場に流れた。というか、流されたから。

またぞろFOMCの声明文のニュアンスに利上げの匂いを感じるか否かの英文解釈相場になるのだろうか。筆者は、年内の利上げの実現性は、限りなくゼロに近いと思う。患者の病状が回復の兆しを見せ、ドクター・バーナンキは、手術の副作用、合併症のほうの治療を考え始める、とまでは言えると思う。でも、最大の問題は、合併症を優先して治療すると、肝腎の病巣が再び悪化して病状がぶり返す可能性が非常に高いことだ。まずは、今週の米国債入札状況に注目。結果次第でドル安に振れる可能性もあるから。

さて、本日は都内でInstitutional Investor誌(機関投資家向けの専門誌)主催のセミナーで講演。秋のPension & Investment誌主催のセミナーと並ぶ二つのメジャーな業界イベントであるが、こういう処で話すこともかつては無かった。出席者の多くは年金基金である。

それから、初心者向けには、日経ネットのマネー&マーケット編集長との対談シリーズ"マネーの知恵袋"で金がテーマになり、動画含めて今週から4回シリーズで流れています。

2009年