豊島逸夫の手帖

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パレスチナの打ち上げ花火

2009年1月7日

今回のこの両者の戦いのメディアの扱いを見るに、連日、死者何名、戦争は悲惨だ、平和を願う的な安易な報道が相変わらず大半である。でも、こういう時こそ、改めて"鳥の目"で、この問題のルーツを考えるべきではないのかな。

なんせ、話はパレスチナ人の祖先がこの地域に住みついた紀元前13世紀に遡るわけだ。そこに紀元前10世紀にはユダヤ教のイスラエル王国が建設された。さらに、ユダヤ教の中からキリスト教が興ると、キリスト教の聖地となり、アラビア半島に興ったイスラム教もここを聖地とする。その後、7世紀にはイスラム帝国の支配下に入り、11世紀には欧州からの十字軍が侵入。12世紀にはエジプト王朝、16世紀にはオスマン帝国と、次々に支配者が変わる。

そして19世紀以降、欧州で少数民族として排斥されてきたユダヤ人がパレスチナに入植した結果、多くのパレスチナ人が難民化したわけだ。そしてパレスチナ自治区の誕生。人口330万人の3分の2がヨルダン川西岸地区に、3分の1が今回紛争のガザ地区に分断された状態で生活を続けることになる。ただし、パレスチナ全人口は900万人居て、周辺地区に散在しているわけだ。

ガザ地区は、正に飛び地みたいなロケーションにあるので、イスラエルにとっては目の上のタンコブみたいな存在ゆえ、いろいろチョッカイ出してきたが、ようやく同地区から撤退した。しかし、兵糧攻めみたいな形で禁輸措置などを強化。そこに立てこもった形の過激派ハマスは、対抗してイスラエル側にロケットを頻繁に打ち込む。

一方、西岸地区は穏健派ファタハに支配されてきたが、その腐敗ぶりなどで人民の信頼を失い、ハマスが選挙で勝利する。しかし、米国はハマスを承認せず。

今回の空爆には、総選挙を控えたイスラエルの国内政局が絡む。次期首相の座を狙うも人気がいまいち盛り上がらないバラク防衛相が仕掛けた戦いなのだ。ここで何らかの譲歩をハマスから引き出せれば、強硬派を自任する同氏の評価は上がる。

しかし、ハマスは自爆テロを美化するドグマを標榜するわけで、徹底抗戦の構え。イスラエルの強硬爆撃に対する世界の批判的論調をテコに周辺アラブ諸国の支持を取り付けたいと願う。親ハマス連合ともいえるイラン、シリア、ヒズボラの後ろ盾もある。現時点では、ハマス側がメディアの報じる悲惨な写真を見た人たちからの判官びいきの同情を集めるものの、圧倒的なイスラエルの軍力に甚大なダメージを受けた状態である。

この戦いは、紀元前に遡る怨念の争いであるから、どんなエンディングでもこれでフィナーレとはなり得ない。それでも、この地の周辺に世界一の原油埋蔵量が無ければ、ひとつの地域紛争程度で、世界的な大騒ぎにはならなかったであろう。

原油価格は、この材料で反騰中であるが、かかるサプライ(供給)ショックによる価格急騰は、まず打ち上げ花火のごとく派手に上がって散る。一過性である。需要サイド要因=世界同時景気後退のほうがボディーブローのようにジワジワ効くことは必定。投機筋の囃したてに乗らないほうが賢明であろう。

2009年