2009年3月23日
SP500のオプション取引の変動を指数化したVIX指数は、別名fear index(恐怖指数)などという、おどろおどろしい名前がつけられているが、金融危機感の強さ、マーケットのセンチメントを計る意味では参考になる指標である。
先週末のVIXは45。昨年秋のリーマンショック後の9月末とほぼ同じ水準。ちなみに昨年3月のベアスタ危機のときは20台だったのが35まで急騰して大騒ぎしていたわけで、今にして思えば"カワイイもの"であった。
VIXの過去最高値は、昨年10月24日につけた89である。この日のVIXの変動は67から89という、一日の変動としては、とてつもないレンジであった。この時期は、本欄も"号外"で、ドル円97円から94円へ急騰、NYダウ300ドル急落、金価格700ドル割れを報じるほど、マーケットが大荒れに荒れた。背景にはヘッジファンドの解散に伴う運用資産の強制売り手仕舞いがあった。
この過去最高値に比べると、このところ40-50台で推移しているというのは意外な感じもする。金融危機感が、昨年10月に比べそれほど弱くなっているとは、とても思えない。筆者が思うに、マーケットはfear(恐怖感)に疲れ、脱力感に襲われているのではないか。茫然自失とでも言おうか。足元で株価はたしかに反騰モードなのだが、投資家は"ホントに信じていいの"という懐疑感から抜けきれない。
これが銀行間取引の場になると、さらに脱力感が強まり、業者間取引の売買高(=市場の流動性)は間違いなく薄まっている。これは金に限らず金融商品全体に共通の現象である。とくにマーケットメーカーと言われる売買価格(オファーとビッド)を呈示する銀行内部のカウンターパーティリスク管理(取引相手ごとの与信管理)が厳しくなり、一件あたり受けられる売買量も縮小の一途である。自己勘定売買は一切停止という処も珍しくない。そうなると裁定取引も充分に機能しなくなるので、リスク資産を回避する傾向は加速する。
さらに、そこで銀行内の雰囲気も極めて悪い。要はリストラの嵐が吹いているわけだ。筆者は仲間内でも年長者のせいか、最近、青山1丁目の事務所が、外資系金融機関で働く後輩たちの"駆け込み寺"とでも言おうか、"人生相談所"と化しているのだ。
確かに、話を聞けば、社員の立場では不安に駆られる状況である。ある日、普段はカジュアルな格好の部長が珍しくスーツネクタイ姿で出勤。見れば机の上も妙に綺麗に整理整頓されている。そして、やおら、彼がメモを取り出し、ひとりひとりの名前を読み上げ始めた。"これから呼ばれる諸君は別室へ"というわけだ。そして呼ばれた数十名が、その後デスクに戻ることはなかった(というか、許されなかった)。
別の例では、ある朝、ぽつりぽつりと社員が会議室に呼ばれてゆくのだが、一向に戻ってこない。4人目、5人目となるにつれ、社内は騒然としてきた。そして、その日の夜までには、そこの組織は100名程度の陣容が5分の1になっていた。だから、(これは以前にも書いたことがあるが)、身の回りの最小限必要な品を小さなボックスに入れてデスクの傍らに置き勤務している連中が多い。日本風に云えば"首を洗って待つ"心境か。
こういうリストラが当たり前の金融機関であるから、当然そこで働くサラリーマン ディーラーの気持ちも萎縮してくる。コンプライアンス オフィサーに言われなくとも、リスクポジションを取ることは控える傾向になるのも当然の流れであろう。
これが、いまのマーケット最前線の実態である。従って、VIXが危機感の割りに上がらないのは、脱力感による市場流動性の減少ゆえ、と思えるわけだ。まぁ、こんな時期に無理することもないよね。平凡な格言だが、"休むも相場"という言葉がヤケに沁みる。