豊島逸夫の手帖

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中国から金が(謹賀)新年

2009年1月5日


正月滞在先の広州から、明けましておめでとうございます。


丸一週間、マーケットも全く見ることなく、"食は広州に在り"の地で食べて寝て運動するだけの生活を送ってきました。いろいろ中国は食べ歩きました が、やはり広州は、文句なく、一番旨い!そして安い。新鮮な魚介類フルコース食べきれないほどで、一人1500円相当!もちろん円高効果もあるけれど、そ れにしてもこの物価水準の格差は、やはり異常。これはやっぱりおかしい。これほどの二国間の価格差が長続きするはずがない、と直感。


1年ほど前、ロンドンで地下鉄切符が1000円であったことを思い出した。とにかく物価が異常に高かった。こんな価格水準が長続きするはずない、と 思った。当時のポンドが250円。そして1年後、今のポンド相場を見れば133円。半値である。エコノミスト的に言えば、二国間の購買力に非合理的な格差 が生じた場合に、マクロ経済的には、早晩、調整メカニズムが働き、平準化の方向に向かう。


その調整メカニズムとは、
1)所得水準による調整=日中間の場合、日本の所得水準が中国に比し大幅に下がり、中国との差が縮まるケース。世界同時不況の中で中国経済も減速するが、 日本経済はそれより遙かに急激に悪化する、という調整である。このシナリオは、考えられないことではない。中国サイドには景気浮揚の為に財政、金融両面か らテコ入れするだけの余裕=政策の懐の深さが残っている。日本のような未曽有の財政赤字は無いし、ゼロ金利でもない。結局、中国が日本国内の雇用を奪うこ とにより、所得水準の格差が縮小するケースである。日本人は"安い、安い"と買いまくるが、買うものは中国製品であるから、中国国内の雇用機会を増やし、 一方、日本国内の産業は空洞化し、失業問題はさらに悪化する。日本はデフレスパイラルに陥り、国内物価水準が下落して、中国との格差が縮まるわけである。


2)為替レートによる調整=これは人民元が高くなり、円が安くなるケースである。これも考えらないシナリオではない。足元では中国人民銀行も国内景 気への悪影響を考慮し、人民元を下げる方向に傾いているが、長期的には人民元の水準が異常に低く抑えられている現状を中国サイドが放置できるはずもない。 一方の円は、外為市場で金利差要因とか円キャリーの巻き戻しなど、もっぱらマネーの流れで円高になっている。日本の実体経済を見れば円が買われる理由は希 薄なのだが、金融経済のインパクトが強く働いて円が買われているわけだ。それも中国風に言えば、熱銭(ホットマネー)の類の投機的資金フローである。この 種の円高は、一時的にハデな円急騰を演じるが、やがて急激な巻き戻しが入りがちなものだ。


と、まぁ、こんなことを、ぼんやり感じつつ、新年を中国で迎えたわけであります。今週から社会復帰するわけですが、果たして首尾良く復帰できるかどうか心配...(笑)


早速8日木曜日には日経CNBCのデリバティブ番組で、今年のマーケット見通しなど喋ることになっています。マーケットの大局観は、少し離れている時のほうが良く見通せるものですよ。


新著のほうも、お陰様で今週後半には1万部の増刷が印刷所から上がってくるので、来週から配本に廻るでしょう。書評など見ていても、ポジショントー クとか荒唐無稽な陰謀説で構成したストーリー仕立てとか金投資で儲けよう的な本ではなく、損得抜きでありのまま経験したままを書き綴ったことが分かってい ただけたようで良かったです。ただ、初級者の方には難解な部分もあるようで、(著者としては分かりやすく書いたつもりでしたが)、次作では改めて初歩的な 部分から噛み砕いて書いてみようかと思っているところです。

2009年