豊島逸夫の手帖

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ワーク シェアリングとペイン シェアリング

2009年3月12日

今話題のワークシェアリング=仕事を分け合って解雇を避けることは、その場しのぎの窮余の策であって、問題の根源的解決にはならない。雇用問題の最重要課題は、何といっても、雇用そのもののパイを大きくすることである。

そこで、グローバル経済に求められていることが、ペイン シェアリング=痛みを分かち合うことであろう。その痛みとは、関税を出来る限り引き下げる、あるいは撤廃することである。具体的にはドーハラウンド交渉の再開だ。この交渉にあたっては、各国が痛みを感じる。関税を引き下げられて悲鳴を上げる産業分野が必ず出てくる。でも、その痛みを避けていては、世界貿易のパイは大きくならず、従って、世界の雇用のパイも大きくならない。為替切り下げ競争で自国輸出産業だけは死守するという結果になるだけだ。

ここはなんとしても自国が不得手な産業分野は、"比較優位"を持つ他国に譲り、自国の得意分野に経営資源を傾注する政策が求められる。こう書くと、多くの読者は"総論賛成、各論反対"の反応を示すかもしれない。自分の従事する産業が"痛み"を共有せねばならぬと分かった瞬間に、絶対反対となる。ここが、この議論の最も難しいところだ。当然、政府には"比較優位"を持つ産業へ転職する人たちのためのセーフティーネット構築が求められる。この転職者サポートは、日本が最も遅れている分野ではないだろうか。

筆者はいわゆるガイシケイで30年以上働いてきたので、実質一年契約の雇用条件を毎年更新してきた。働きぶりが悪いと社内評価されれば雇用契約を打ち切られる、という緊張感がずっと続いてきたので、それが当たり前になってしまった。そういう立場の人間から見れば、同期で日本企業に30年働いている連中の多くが実にひ弱に見えてしまう。彼らの多くは、いったん社外に放り出されたら茫然自失状態になるだけだ。

まぁ、今朝書いたことは、多くの読者の反感を買いそうだが、ペイン シェアリングなくして、サブプライム不況からの脱却もなし、と考える。インフレという合併症を伴いがちな財政金融政策によるサポートより、一時的な痛みはあっても、後遺症の少ない自由貿易政策が、結局は、最も痛みの少ないシナリオなのだ。

そして、貴金属業界でも、それなりのペイン シェアリングが必要であろう。IMF金売却に関して、米議会でロビー活動を展開し、同案を否決するような動きは避けることだ。世界金融危機の中で国家存続の瀬戸際にある国を救済する必要があるのだが、IMFには資金が足りない。そこで保有金を売却して原資に充てることは、まさに"有事に金を売ってしのぐ"という有事の金の本来の使用目的でもある。

客観的に見れば400トン程度の売却量は、ETFとか新興国の需要が回復すれば容易に吸収できる量である。

なお、筆者は、ガイトナーがIMF金売却を議会に要請へ動いており、近々発表になると思われる。このIMF金売却に対するマーケットの反応が、金市場の"信頼感指数"になるだろう。つまり、大きく下げれば、地合いが弱いということ。逆に反応薄であれば、マーケットが自信を持っているということの証しになる。この反応の違いが魚の目で見たマーケットの潮流を計るうえで大きなヒントになるのだ。

いずれにしても 売却開始は年末か来年初めになるだろうが、これを先取りして"噂で売って、ニュースで買う"投機筋も必ず現れるよ。

2009年