豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 判決の日近づく パート3
Page652

判決の日近づく パート3

2009年3月2日

この週末、筆者は常時インターネットで外電をチェックしていた。AIGに関する"週末緊急発表"があるかもしれないという、欧米マーケット金曜午後の緊張した雰囲気が気になっていたのだ。なんせ、損失額が史上最悪の5兆円を超し、ハンパではない。解体も含め、土壇場でかなり大胆な政府決断が予想される。本稿執筆時3月2日日本時間朝6時時点では発表なし。今日のNY時間になるのかな...。

シティーは、本欄2月24日付け"判決の日近づく パート2"にこう書いた。

(引用)
そもそも国有化の定義も曖昧である。経営に口出しできない優先株から、モノ言う株主になれる普通株に切り替えて国が40%も保有すれば"国有化"ということになるのだろうが...
(引用終わり)

結果は、36%の普通株所有による"政府管理"。筆者の持つ欧米金市場情報ネットワークは、WSJやCNBCスクープより4日早かったね。これが金市場の先見性なのだ。

マーケットは"政府管理"では国有化完了とは看做さず。シティー株が、なんと1ドルまで売り込まれた。1日の下落率にすると40%近いのではないかな。政府管理ということは、普通株の価値は希薄するから株主は大損するが、預金者の不安を和らげるという意味では悪い話ばかりでもない。永久に国有化などは誰も考えていないし、仮に国有化でもパート2で使った喩え(=F1のピット入り)という一時国有化ということなのだ。

UBSについては、トップの頭をすげかえることで執行猶予となった。劇的だったのは、そこでなんとライバル銀行のクレディースイス(CS)CEOグリューベル氏を引っこ抜いてきたこと。40年もCSに勤務し、スイス銀行界の表も裏も知り尽くした男。とくに富裕層部門と投資銀行部門を拡充させ一時落ち込んだCSの業績を回復させた手腕を買われた。パート2にも書いたように、UBSは実質的に国策銀行であるから、ライバル行だろうが何だろうが関係なく、国を挙げて守るという姿勢だ。すでに4兆円を超す不良資産がスイス国立銀行の救済基金の勘定に移されている。問題は、米国脱税幇助の問題で失われた富裕層の信頼をどこまで取り戻せるかだね。同行株価は、前任者の時代に8割下落した。新任CEO発表で16%戻したが、これがご祝儀相場かどうか、これから真価が問われる。

さて、週末は長崎で三菱マテリアル主催セミナーやってきました。驚いたのは、なんと80名ちかく集まり、聴衆の皆さんが実に真剣だったことです。福岡店の長崎店長(名前は偶然の一致)がFPで、普段から草の根運動している成果でもありましょう。同時に地方までのマーケットの裾野の広がりを実感。場所が市民会館のこじんまりした会場というのも良かった。(地下には生鮮市場が)。皆さんとの距離が近く、反応がひしひし感じられ、会場全体も盛り上がるからです。日経ホールで500名集まる日経プラスワンセミナーとは違った、身近なコミュニケーションが出来たと感じました。

昨年、来るもの拒まずで、年間80回の週末セミナー引き受けてしまって、体調をこわした経験から、今年は意識的に抑えていますが、長崎会場のような(筆者にとって)未知の地でこういう体験をすると、また気張ろうかという気になりますね。

気張ろうかという意味で励まされたのは、先週本欄で呼びかけた次回作についての意見のレスの多さ。はっきり言って、千差万別の答えで益々どれを書けばよいか分からなくなりましたが(笑)、ただ、皆さんがホントに熱心に読んでくださっていることに素直に感動しました。書き手の冥利に尽きます。

"今まではGOLDに関係したビジネスで生業を得ているなんて、何となく胡散臭い人だろうくらいに思っていましたが、文面から誠実さが伝わってきます"というロコロンドン被害者の方からのメールに、"もっと早くこのコーナーに出会っていれば、それもなかった事であろう"と書いてありました。こういう本音は書く方の気持ちに特に響きますね。

そうかと思えば、3ページにわたり、グローバル経済の現状を見事にまとめた一文を送って下さり、これだけ書けるなら著書など読まなくてもと思いましたが、最後、ぽつり、とひとこと。"それで、私は、どうすればよいのでしょうか"。

Two hands を使えるアナリストタイプは、やはone handしか使えないディーラーにはなれないようで。

全体に共通して言えることは、筆者がポジショントークなしに、本音で色々な体験談とか例え話を引き合いに出しながら、自由に書いていることが、皆さんの共感を得ているようですね。読者層もプロから初心者まで多岐に亘り、次回作については、最大公約数など、とても出てきませんが。

読者層の広がりと言えば、昨日発売の日経ヴェリタスに"米中 米国債巡る仮面夫婦"という見出しのNY発記事があって、思わず二ヤリ。著書を読んだ方もピンときたと思いますけど、233ページに米中仮面夫婦という見出しで書きましたよね。日経のプロも読んでくださって光栄です。

サブプライム勃発当初の2007年6月27日付けでは"福袋のリスク"同7月19日に"福袋の中身はガラクタだった"と書きましたが、その後カリスマ教師の書いた経済解説書にも"サブプライムの福袋"という譬えが使われていて、これも光栄でした。

筆者は原稿料抜き、印税は寄付という姿勢で、趣味で気楽に本欄を書いているので、皆さんに遠慮なく利用していただけることで素直に嬉しいのですよ。(親友たちからは、ボケ防止に毎朝書くのも良いだろうと軽口を叩かれていますけどね。ほんと、最近、物忘れが激しくなった。先週も取材のダブルブッキングしでかしたし...。)

2009年