2009年6月30日
先週金曜日のFT(フィナンシャル・タイムズ)に掲載されたグリーンスパン論文が、ウオール街の話題になっている。見出しは、"Inflation is the big threat to a sustained recovery."=「持続的経済回復にはインフレが大きな脅威」。
論旨としては、今後の景気は株価次第。そこで最大の障害は、景気浮揚のための未曽有の国債発行が金利上昇を引き起こす可能性である。その障害を回避するためには、FRBが大量の国債を買い取らねばならず、ここにインフレリスクがある。かかる困難な経済環境下で、資金調達が民間部門ではなく公的部門を通じて行われていることは、自由経済システムに対する脅威である。
という内容で、はっきり言って特に目新しい議論ではない。ただ、それをドクター・グリーンスパンが書いたことで注目されているわけだ。いまや、住宅バブルの戦犯扱いされている同氏だが、その影響力は衰えていないようだ。もう少し、詳しく、論文を読むと。
―今年3月からの米株価急騰により、企業の時価総額も増加し、資金調達にキュウキュウとしていた米企業も、新規の債券、株式発行が出来る環境になった。
―しかし、この状況が持続するためには、不動産価格が安定することが大前提である。しかも、その不動産は証券化され米国外の投資家により保有されている状況に変わりはない。
―数ヵ月後には、住宅在庫がさばけて不動産価格が安定すると見るが、低迷状態は2010年まで続こう。
―私の議論が株価に普通以上のウエイトを置いていることは承知しているが、株価は資産効果による個人消費改善のみならず、企業のバランスシート改善による効果も持つことを強調したい。
―株価持続のためには、デフレとインフレの可能性が除去されねばならぬ。足元では設備過剰によるデフレ懸念が株価の頭を押さえる。しかし、政治的圧力により中央銀行がバランスシートを膨張させると、2012年までにはインフレが浮上する。もしマーケットが、マネーサプライの持続的増加を予見すれば、その時期は早まる。
―The need to finance fiscal deficits could lead to pressure on central banks to print money to buy much of the new debt.=財政支出を賄うために、中央銀行には、新発債を買い取り、紙幣を増発する政治的圧力がかかろう。
―FRBは、失業率に下落の兆しが見えた途端に、買い取った債券の売却を通じて、市中のマネーを吸収し、金利上昇を容認することになろう。
―今後10年の米国の財政支出は、staggering=マーケットを震撼させる。この長期的インフレ懸念は、長期米国債の利回りに反映されることになろう。そうなると株価は弱含む。
―そこで米国の選択は、財政赤字と信用膨張を抑制するか、インフレのお膳立てをするか どちらかである。
―もう一つ忘れてならないことは、公的部門を通じて米国経済の資金調達が進行しているという事実だ。民間への資金配分に対して政治的配慮が影響力を持つことになる。これは民間のcreative destruction=創造的破壊を通じて生活水準を上げるプロセスを妨げる。金融規制も、自己資本改善などのためには必要だが、世界経済成長のために民間部門に適切な資金投入を行うためには、民間部門の資金配分原則に任せることが重要なのだ。政治の介入の歴史は、失敗の歴史である。
最後のくだりは、自由経済原則堅持の姿勢を頑として変えないグリーンスパンの面目躍如か。