豊島逸夫の手帖

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雇用なき回復

2009年7月14日

更新間隔が空いて体調崩したのかとご心配いただきましたが、いたって元気であります。同時進行で20ほどプロジェクトをかかえて頭の中がウニ状態になっているので心理的余裕がないだけ。

今週のNY株は金融機関のearnings week=業績発表の週。Confession week=告白の週などと言われた頃に比べれば切迫した悲壮感は感じられず、一番バッターのゴールドマンサックスは高収益。しかし、その稼ぎ頭はtrading=ディーリング部門とPE=未公開株。とくにディーリングの収益は振れが大きい。

米銀全体としては勝ち組、負け組の二極化が顕著、と、6月11日付け「金を通してマーケットを読む」で書いたが、その状況は変わっていない。商業用不動産にまだ懸念が残ることも変わってない。

民間の銀行システムは、タダ同然にFRBからおカネを取り放題なのだけれど、肝心の借り手がいない、というか、与信が下りる先が見つからない。本業は凍りついたまま、リストラの経費削減でバランスシートは良くなっている。

昨晩も筆者のお気に入り金融アナリスト、ウイットニ―女史が経済チャンネルで語っていたが、辛口の彼女も短期的には金融株に買い推奨もあるという。しかし、長期的には結局、失業率が改善しないことには本業が改善しないと強調していた。ちなみに彼女は失業率13%台までを見込む。やっぱり辛口は変わらず。昨晩はバーナンキも、jobless recovery=雇用なき回復を憂う発言。

さて、米経済の亀裂が至るところに発生。ハーバード留学中の知り合いが最近、授業が減り、大人数の詰め込みになったと嘆いていたことがきっかけで調べてみたら、その原因はハーバード大学基金が運用で2008年に23%もマイナスを記録したことだった。ちなみに他の有名校(ivy league)は平均30%のマイナスだから、まだマシだという大学当局のコメントもあったが...。

同基金は1990年に4800億円相当だったのが2008年6月末時点では3兆6900億円にまで成長。そこでご多聞にもれず校内では講座増設とか校舎新築とか、新規計画は何でも通るような空気があったらしい。その運用を担当していたトップは辞めて、手下のファンドマネージャーたちをごっそり連れてヘッジファンドを始めたそうだ。彼らの給料は数10億円が珍しくなかったという。

現オバマ政権の経済ブレーンとなったラリーサマーズは、同校のプレジデントとしての在任中に金利上昇をヘッジするために金利スワップを導入したが、その後、金利は急降下して1000億円の損失を計上。しかし、その金利スワップは清算されることもなく放置されたという。トップビジネススクール自身が経営感覚に欠ける象牙の塔であったというお粗末な実態を曝け出した。

お粗末さ加減では、カリフォルニア州の財政危機もヒケをとらない。ついに出入り業者の決済のやりくりがつかず、IOU(州の借金証文)を発行する事態となったが、その受取を大手銀行が拒否する姿勢も見せている。国が発行するIOUは拒否しないが州の発行するIOUは拒否するということ?オバマ、バーナンキに比べてシュワちゃんは、やっぱり見劣りするのかね...。

なんか、この話、米ドルの行く末を暗示しているかのよう。ちなみにIOUには3.75%の利息がつくそうだが。専門的にはワラントとなり償還期日は今年10月2日とか。このIOUをつかまされた業者が、期日前にうっかりそれを使うと不渡り小切手同然の扱いを受けるとFRBが警告している。

そもそも米国地方自治体の発行する債券はmuniと呼ばれ、安全資産として機関投資家により大量に購入されてきたから、カリフォルニア州発行債券の格下げの影響は広範囲に及ぶ。

最後に足元の金価格は910ドルで持ちこたえ、昨晩は920ドルを回復。しかし、インドのモンスーンも悪く、金ETF残高も減少傾向ゆえ、これで底入れとは言い難い。

2009年