豊島逸夫の手帖

Page728 生命維持装置を外して大丈夫?

2009年8月25日

米国政府は、車買換え優遇制度を唐突に終了させた。週末は駆け込み購入で大混乱だったらしいが、魚の目で見ると、そんなに早く止めてしまって自動車販売のほうはどうなるの?ということが気になる。折しもFRBは出口戦略を語りはじめ、金融安定化措置の段階的終了を示唆している。筆者の感覚としては、入院患者の点滴をもう外して大丈夫なのかなぁ...。

マーケットは、NY株などを、これまで「期待感」だけで買い上げてきたわけだし、誰が見ても、これ以上確固たる「証拠」なしに「先行き明るい」とか、「トンネルの向こうに光が見える」という言葉だけで買い上げることは難しい。景気動向をW変形型と見て、今はその真ん中の山を越えているとする筆者の目には、NY株高もベアー・マーケット・ラリー(弱気相場の中の上昇局面)としか映らない。ベアー・マーケット・ラリーは、「心地よい」ニュースが出たときに終わるものだ。「景気回復」の噂で買って、「なにか良い経済統計が出るというような」ニュースで売る類である。

さて、話は飛んで、商品ETFの思わぬ落とし穴の話。今、米国では商品先物の投機規制が俎上に上っている。そこで、ポジション・リミット(持ち高規制)を嫌ったETF業者が、商品ETFあるいはETN(現物ではなく債券などで運用するタイプ)の在庫を減らしているのだ。ここでいうETF業者とは、正確にはAP(authorized participant)と呼ばれるETF参加者で、まとまった量をcreate(組成)して在庫を持ち、取引所経由で顧客の売買注文に応える、という重要な役割を果たしている。ETF市場に流動性を供給する(liquidity provider)という彼らの持つ機能がなければ、ETFの値づけもママならないわけだ。

その彼らにしてみれば、大量の在庫を抱えたままで持ち高規制など導入されては、蛇の生殺しになってしまう。そこで在庫を最小限に減らした結果、品薄になり、その商品ETF、ETNの価格にプレミアムまでついてしまったのだ。

個人投資家にとっては、原油とか天然ガスとかの天然資源に「効率的」にアクセスして投資できる手段はこれ以外にはほとんど無いので、買い意欲は根強い。その結果、たとえば米国の天然ガスファンド(US Natural Gas Futures Fund)の価格と、その運用指標となっている米国天然ガス先物価格(この場合は9月物)の、この2週間ほどの価格推移を見ると、前者がマイナス8.57%、後者がマイナス19.74%と乖離しているのだ。とくに直近では、後者が下げ基調継続なのに、前者は若干上げている。

このように運用資産価格と、当該ETF、ETNの価格が異なってくる現象は、この種の投資商品にとって命取りである。運用資産の価格に連動して効率的にアクセスできることこそが売り物なのだから。

例に出した天然ガスファンドのプレミアムなども、もしCFTC(米国先物取引委員会)が規制を撤廃の方向に動いたら、一夜にして消えてしまうだろう。そもそも商品先物価格に連動する商品には、運用資産との連動という点で根本的問題がある。先物価格がコンタンゴ(先物価格のほうが現物価格より高い状態)になったり、逆のバックワデーションになったり、先高感先安感次第でコロコロ変わるから追い切れないのだ。

これを運用する機関投資家は、このコンタンゴの分をいただこうとして(roll yieldという)、現物を買い、先物を売る、という操作を繰り返す。多くの投資家が、このroll yieldを求めれば、当然先物と現物の価格差は縮小してしまうことになりがちだ。

金ETFの分野でも、現物を買いETFを組成するオーソドックスなタイプが、世界的に見れば9割以上を占めるのだが、中には金に連動する債券で運用するETN(Exchange Traded Note)というタイプもあるから、投資家も見極めが肝要だ。ETNには債券発行体の破たんリスクがつきまとうから、買うとすればトレーディング感覚の短期売買の手段として割り切るべきだろう。長期投資家や年金などの長期保有には不適である。

その長期投資をテーマにした日経マネー編集部主催セミナーが、先週土曜日に開催されました。一人2000円と有料だったので、果たして会場がどれだけ埋まるかと思っていましたが、ほぼ満席の150名近くが参加。個人的に嬉しかったのは、筆者のブログで呼びかけたことで100名前後が来て下さったことです。自分自身は手弁当の講師参加だから、その意気に感じてくれたことが嬉しい。

そもそものキッカケとなった大阪での中野さん(セゾン投信)と渋澤さん(コモンズ投信)の3人の掛け合いフリートークを、今回は日経マネー鈴木編集長がモデレーターで仕切るというカタチで、大阪よりは筆者もお行儀が良かったかな(笑)。なんでも日経マネーの編集記事で再録するというので、カメラマンまで来ていたらから。それでも、笑いが絶えず、渋澤さんと筆者がマイク取り合うという一幕までありました。お互い共感できる間柄だからこそ、遠慮なく発言できるのですね。なごやかな中にも興味深い問題提起があって、パネラーとして壇上に座っている筆者も色々考えさせられました。仔細はいずれ日経マネー紙面で。

ひとつだけ、さわりを。筆者の提案(?)。儲けようと売買するのではなく、毎日損しようと思って売買したら、結果はどうなる?答えは、紙面で、どうぞ。
また機会あれば、このトリオでやってみたいと思います。

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