2009年1月6日
さてさて、かろうじて社会復帰を果たしたところで、今年の市場動向について。実は、このトピックに関しての見方は、本欄2008年11月17日"金融サミット後のマーケット"に書いたことと、いささかもぶれていない。
以下引用。
―金融危機後のマクロ経済は、一言で言って"縮小均衡"と見る。世界的景気後退の波の中で、ドーハラウンドが決裂したままということは、自由貿易による"拡大均衡"の道が断たれたことを意味する。その中で、各国がパイの奪い合い=自国通貨安による輸出増を願い、他国を踏み台にして自国は生き残ろうとする近隣窮乏化政策が幅を効かせる。BRICsの中でも、中国はマシなほうで、インドは黄色信号、ロシアには赤信号がともり、国別格差が広がる。
―金融危機後の国際通貨制度は、結局、ドルに替わる国際基軸通貨が見えてこない。国際協調に基づくシステム=IMFとかSDRなどが継続的にうまく機能した試しがない。金本位制はありえない。米ドルは様々な問題を抱え、信認の薄い通貨であるからドル離れ現象は続くが、それでもメインの通貨はやはりドルである。例えば、中国の外貨準備は2兆ドルに迫り、その65%から70%がドル保有とされるが、その比率を50-55%に落とすという通貨ポートフォリオのリバランスは進行しよう。しかし、ドルが50%を占めるというドル依存の構図は変わらない。ドル価値が下がって困るのは中国自身である。
―為替について。ドル円は90円から110円まで、何でもありの1年になりそう。ドル、ユーロ、円の弱さ比べの構図は変わらず。不等式で言えば、ユーロ<ドル<円という足元の流れの基盤は脆い。この三通貨が三つ巴で抜きつ抜かれつのレース展開になるから、円高、円安が交互に示現する。今年同様、ドル円が10-15円くらいは、アッという間に値が飛ぶ。長期的ドル安とかドル高のトレンドは非常に出にくい一年になろう。
―金融危機後のマーケットは、当局並びに社内のリスク管理が厳しくなるので、売買の流動性が減る。投資家もリスク取りたがらないし、プロはプロでリスクを取ることを制限される。結局、バランスシートの膨れ上がったFRBなど公的部門がリスクテーカーになる。市場の流動性が減少することは、価格の短期乱高下が常態化しよう。値は上にも下にも短期に相当飛ぶ状況が続く。その中で、投機的売買が減るということは、需給のファンダメンタルズがこれまでよりも材料視される局面が増えよう。ちょっとした需給要因が思わぬ価格変動を呼ぶ。
以上、引用終わり。
最大のキーワードは、グローバル経済の"縮小均衡"かな。今朝[6日]の日経朝刊国際面にも、広州発記事で"中国の改革、開放の牽引役を務めてきた広東省は、2009年に同省の貿易額の伸びがゼロになるとの予測を打ち出した"とある。たしかに、その広州から帰ったばかりの筆者には実感のある記事だ。道路は以前よりすいているし、香港への入国審査の列も遙かに短い。それでも日曜稼働の工場もあるから、セクター別にまだら模様なのだと思う。いずれにせよ中国経済だって、背水の陣で世界同時不況に立ち向かっているわけで、日本など他国の経済などに構っている余裕はない。ここに近隣窮乏化政策による縮小均衡の兆しが明確に見られる。
ここに至って、"中国 ガス田単独開発を継続 日中に再び不協和音"(同2面記事)となったのも、なりふりかまわぬ中国サイドの姿勢を物語っている。そして、"中国は米国債を売るべき 社会科学院研究所所長 政府買い増しに異議"(同国際面)の北京発報道を見るに、そろそろアドバルーンを上げ始めたな、という感じを受ける。つまり、米国債が急落して一番困るのは最大の米国債保有者=中国なのだが、北京の党上層部にはそのような"国際経済感覚"は無い。なにも仮想敵国の国債など買って"敵に塩を送る"ことはないだろう、という単純な論理がまかり通りかねない。ここに、2009年のグローバル経済の最大のリスクがある。新著233ページにも書いたことだが、米国と中国の関係は所詮"仮面夫婦"である。いつ離婚してもおかしくないのだが、おいそれと離婚にも踏み切れないという二国間関係にグローバル経済が依存しているという危うい構造だ。
さて、ゴールドマーケットの動向については、昨年末に本欄で4回にわたって詳述。1月3日付けの日経朝刊"09商品市況展望"の筆者コメントも参照してください。さらに、日本経済新聞出版社"2009投資アウトルック"でも、"魚の目"で金市場2009年動向について詳述しています。単行本なので書いたのは昨年11月なのだけど鮮度は全く落ちていません。こちらの本はあまり売れていないみたいだけど(笑)。
なお、今朝の朝刊2面の日本経済新聞出版社書籍広告には、昨日お知らせしたとおり、新著"1月13日増刷出来!"と告知されています。それまでは、新宿紀伊國屋とかアマゾンでも"品切れ"で、新著も開店休業状態です。
"鳥の目"で見た、金市場長期トレンドについては、この新著を参照してください。