2009年3月6日
今日は、まずアーカイブで2008年2月5日付け本欄"米中連合軍 暁の急襲"を再読してからお読みいただきたい。
中国アルミ(Chinalco)が米国のアルコア(Alcoa)と組んで、資源大手リオティントの株式取得に乗り出した話である。中国が飽くなき資源獲得への執念を見せた一幕として紹介した。(この株式取得の仲介役として投資銀行のノウハウを駆使し中核的役割を演じたリーマンが、その半年後に破たんすると誰が予想したであろうか...。)
そして一年の時を経て、アルコアは金融危機の煽りで株価が5ドルまで暴落。リオティント株も中国アルミに売却譲渡した。対照的に、中国アルミはリオティント株式の保有を18%に倍増するという計画を発表。サブプライムウイルスの震源地国籍の会社と、同ウイルス汚染度の低い国の国策企業との体力の違いは歴然である。
この中国アルミの積極姿勢に一段と警戒心を強めているのがオーストラリア。そもそもリオティントは英国とオーストラリアに二元上場しており、同社所有の資源(鉱物、ダイヤモンド、エネルギー)の多くがオーストラリアに存在する。そこで、中国の実質的国営企業とも言える中国アルミが自国資源を買い占めることに対して、非常に神経質になっているわけだ。しかも、同時進行で3件も中国系企業の豪州企業買収工作が進められている。
そこで、中国アルミは豪州のIR(企業PR)会社を雇い、同社が中国政府とは独立した私企業であることをシドニーでの記者会見などを通じアピールする という融和姿勢で臨んでいる。しかし、2005年には米国でCNOOC(中国海洋石油公司)のUNOCAL(米国石油会社)に対する買収提案が、米国内で議論を呼び結局破談になった例もまだ記憶に新しい。CNOOCの70%を保有する企業が非上場で100%中国国営企業であった。
今回の中国アルミにしても、追加的株式取得計画発表直後に"折悪しく"、同社のトップが中国政府内の公職も兼務という"昇格人事"が発表された。そして、ここからが実は今日の話の本番なのだが、この買収計画発表の直前に中国系政府ファンドCICの会長が、豪州を訪問しているのだ。
CICは設立当初、矢継ぎ早にブラックストーン、モルガンスタンレーと米国金融関連会社に出資したものの、その後の株価暴落で典型的"世間知らずの若旦那が賭場に出入り始めて、いきなりむしられる"パターンを演じてしまった。党内部でも非難され、しばらく"自宅謹慎"を命じられていたのだが、それも解け、最近になってコモディティー(商品)セクターへ分散運用の矛先を向けてきた。実際のCICの役割は、中国国営企業の海外資産取得のスポンサー兼コーディネーターということになる。
事実関係を調べてみれば、CIC幹部は北京での記者会見で"多くのコモディティーは割安で、今後の投資対象として検討中"とコメントしている。筆者は著書の176ページで中国政府の公的金購入について"政府系ファンドの可能性"を論じたが、いよいよ現実味が増してきたというのが実感である。
仮面夫婦の妻が持つ財産が、夫の約束手形ばかりでは当然不安であろう。へそくりでゴールドを持ってもなんの不思議もない。
さて、足元の金市場は、プロが900ドル割れを見込んで空売り(ショート)ポジションを膨らませたところで、別の仕手筋が大量の買いを入れてショートを締めあげるという仕手戦の様相。昨晩はショートカバーで930ドル台まで急騰した。キツネとタヌキの化かし合い相場である。その間、実需筋とか金ETFの"基礎的条件=ファンダメンタルズ"には著変なし。需給はだぶついている。
とはいえ、BOE(イングランド銀行)もECB(欧州中央銀行)も、ゼロ金利とか量的緩和への傾斜を強め始めると、世界的な超低金利傾向が加速する。5月までのヘッジファンドの解散、清算も、IMF金売却発表も気になるが、キツネとタヌキにはやらせておくとして(彼らは化かし合いが仕事だからね)、あくまで大局観で臨みたい。