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ヘッジファンドの配当も"金"で受け取る時代

2009年2月3日

ヘッジファンドの専門家で本欄読者の方が、以下のブルームバーグ記事を送ってくれた。

ヘッジファンドのオスミウム:顧客の投資収益受け取り、金も選択肢に 2009-01-30 08:09:15.537 GMT
【記者:Chanyaporn Chanjaroen】
1月29日(ブルームバーグ):ヘッジファンド運用会社のオスミウム・キャピタル・マネジメント(バミューダ諸島)は、投資家が投資収益を受け取る際、金を選択肢に含める方針だ。同ヘッジファンドの運用資産は1億7800万ドル(約159億円)。
クリス・クッチャニー氏が創業したオスミウムは、投資家にあてた電子メールの書簡で「多くの投資家は既に主要な不換紙幣を保有しており、投資能力を低下させることなく金に移行することを望んでいる」としている。不換紙幣は本位貨幣との交換が保証されていない。同社のファンド「オスミウム・スペシャル・シチュエーションズ」の年間リターン(投資収益率)は、2005年の運用開始以降、12.8%となっている。
投資家には、ドルやユーロ、ポンド建てのほか金建てでファンドに投資する選択肢が提供される予定。投資された資金は金に変換され、ファンドは金を換金したり月間ベースで金の先物を購入したりすることで持ち高をヘッジする見通しだ。
原題:Osmium Hedge Fund Allows Clients to Add Gold Returns to Payouts(抜粋){NXTW NSN KE8OLG1A74E9 <GO>}
以上、引用終わり。

この記事を読んで筆者が思い出したのは、UBSの看板コモディティーアナリスト、ジョンリードと京都で対談したときの彼の言葉、"I feel like selling all the currencies=全ての通貨を売りたい気持ちだよ"。話がドル、ユーロのレートに及んだときであった。今回の海外金高を象徴するようなエピソードである。

なお、昨日の海外金市場では、ブログを書いた直後から春節明けのアジアの売り攻勢が始まり、NYも結局20ドル以上安く引けた。昨日に関しては、新興国の売りが欧米の買いを制したカタチだ。930ドルに強力な上値抵抗線があり、これを抜けると950ドル。そこまで行けば1000ドルも視野に入ってくる。

しかし、金融有事という要因で買われている限り、その上げが一過性になりがちなことは、すでに何回か述べた。やはり(対ユーロで)ドル安というエンジンが全開しないと、持続性のある金価格上昇とはなりにくい。EU圏経済の痛み具合も酷いが、やはり震源地の米国経済の惨状はもっと悪い(worse)、という相対価値判断が外為市場で働いたときに、1000ドルという数字もより現実的になろう。

さて、今朝の日経朝刊記事で一番怖いと思ったのは、一面の"ザ厚労省"というシリーズの"年金運用"篇。その内容は筆者が体験してきたこととピッタリ一致する。例えば、年金関連のコンファレンスに参加すると、じつに対照的な二つのグループの合コンという印象を受ける。片や、大企業管理部門の50歳台と思しきオジさん軍団。各企業の年金担当トップは、人事、総務などの部門の"あがり"のポジションというケースが多いのだ。対するは、キャピキャピのアラフォー ワーキング ウーマン集団。外資系金融機関の機関投資家向けセールス部門には、なぜか(理由は明白だが...)、オジさんたちより相対的に若い女性が多いのだ。なんとか、自分の任期はサラリーマン最後の仕事として無難に切り抜けたいと思う集団と、なんとかセールスの実績を上げねばというプレッシャーと戦う集団。

しかし、金融危機ぼっ発以後は、そのような年金関連コンファレンスにもスポンサーがつかなくなったらしい。例年恒例のII(インスティテューショナル インベスター誌)主催年金フォーラムが、今年はスポンサー不足で開催延期となっている。

日経の記事に戻るが、"百年安心"を掲げる公的年金制度の実態が生々しく書かれている。百年安心というと、"金2000年、ドル200年、ユーロ10年"という金のキャッチフレーズになりそうな言葉だねぇぇ...。

記事の最後に、取材班の記者さんたちの名前が並んでいたが、たぶん、皆、若手の諸君なのだろう。おそらくインフレの経験の無い世代だと思う。だからインフレに弱い国債に対する不安感が、さほど感じられない。これ、取材される身の筆者が常に感じることで、(社会に出ていきなりインフレを体験した)団塊の世代の為の資産運用と称して書かれる記事のほとんどは、若手のライターが書いている。彼らにインフレの話をしても、キョトンとして昔話のひとつ程度のインパクトしか感じていない。まぁ、経験していないのだから無理もないけどね...。

最後に、昨日書いた"金は不毛の資産"という言い回しについて、色々意見があるようなので補足しておく。(なにも"不毛"にこだわるわけではないよ 笑)

著書("金を通して世界を読む")27ページ、図1-7、"誰の債務でもない金"をご覧いただくと分かるのだが、金に投資されたマネーは、運用されず再生産には回らないから利息も配当も生まない。故に不毛の資産である。しかし、同時に、運用されないということは運用リスク、信用リスクもない、ということでもある。なんだ、当たり前の話ではないか、と思われるかもしれないが、その当たり前のことが非常に有り難味のあることになってしまったのが、今の時代なのだよ。"運用しないこと"も立派な運用と言える。かと言って、キャッシュではインフレに弱い。そこで、現物の金が浮上したということであろう。

証券会社のセミナーに出ると、"運用シンドローム"というか、おカネを"遊ばせる"ということに"焦り"を感じている個人投資家が多いことに気づく。でも、ゼロ金利ということは、金利の原点に立てば、何で運用してもリターンがゼロに近いということなのだよね。そんなときこそ、運用しないことも立派な運用だと思うのだ。こんなこと書くと、ギョーカイ関係者からは怒られそうだが...。

2009年