豊島逸夫の手帖

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デカプリオか リカちゃんか

2008年1月29日

一時のデカプリング(俗称デカプリオ)は影を潜め、やっぱり、リカプリング(俗称リカちゃん)だという趨勢になってきた。この問題の根底には国際経済不均衡の問題がある。

米国=貯蓄不足、消費過多、赤字体質(民間、財政、経常収支)
中国=貯蓄過多、消費不足、黒字体質(1兆4千億ドルの外貨準備)

かたや米国は国民のライフスタイル。借金しても人生を楽しみ、身の丈以上のマイホームを建てたがる国民性。
かたや中国は年金不安。制度も確立されておらず、将来が不安だから、とにかく貯めておく。

そして、中国は米国人の消費意欲を満たすために大量の安価な輸出品を販売し、それで得た外貨収入の山を、主として米国債で運用している。つまり、米国人の積み上げたツケの当面の肩代わりをしてやっている、というイビツなマネーの流れ。この不均衡是正には為替メカニズムによる調整=人民元切り上げしかない。国民性はそう簡単には変わらないのだから。

さらに、中国国内では、内需拡大といっても、生産設備の増強ばかりに走っている。その結果、供給過剰。

どうみても、デカプリオには分が悪い。米国景気減速と連動せずに中国の内需が拡大するとは思えぬ。その内需の内容も問題。筆者がリカちゃん派についた決定的エピソードがある。WGC東京で長く経理部長をやっていた男性が引退後、中国に渡り、日本語の先生になった。場所はあの旅順。軍港以外なにもない処だそうだ。そこの一角に立派な高層アパート群が建設されたが、どうも居住者の姿が見えない。空家のママだそうだ。道路は年中、工事中。やれ水道管敷設だ、やれガス管だと、そのたびに掘り起こすから道はガタガタ。これが"内需"の実態と見た。

ケインズは砂漠に大穴を掘り、それを埋める作業を繰り返すだけでも経済の有効需要を生むと説いた。中国政府もケインジアンと見える。しかし、そのような内需で米国に代わる世界景気のけん引役となれるだろうか。

この問題は金の下げ材料にもなりうる。つまり、米国経済がくしゃみして、中国経済は風邪、最悪肺炎おこし、バブルが破たんするシナリオ。新興国経済成長ストーリーで買われてきた商品には売りのシナリオとなる。

昨晩も史上最高値更新に湧くNY金価格。1000ドルを見ないと気が済まないというモメンタム(相場の勢い)を感じる。材料的にもドル安、原油高、サブプライム信用不安と圧倒的に買い材料が勝る。そこに敢えて下げ材料を見つけるとすれば、リカちゃんとなろうか。

足元では とにかくFOMCと米国雇用統計待ちだが、南ア電力危機による供給不安という突発的材料も出てきた。ただ、この手の話は投機筋に格好の材料にされ乱高下の元になるから要注意。

プラチナは急騰というより暴騰の気配。空売り(ショート筋)が現物の引き渡し用の手当てができず締めあげられる、スクイーズと呼ばれる現象の典型だ。現物を借りようにもリースレートも暴騰。その結果、現物価格が先物価格を大幅に上回る極端なバックワデーションという事態が加速中だ。こうなると足元みられたショートは、リンチでボコボコにされるような状況になる。最後はケガ人が続出してひと相場終わる。

有事の金について、以前、本欄で、投機の材料にされるから、うっかり乗るとケガするよと述べたが、南ア供給不安も同様の特徴があるよ。

2008年