豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. セミナーの質問に答える パート2
Page492

セミナーの質問に答える パート2

2008年5月27日

―GFMSの"08年の金価格予測は850-1200$、09年は大きな山の後、軟調に推移する"との見通しについてご意見をお聞かせください。1980年の暴騰、暴落と、09年の"大きな山"とは似ていませんか。

492.jpgこの二つの図は、筆者がセミナーで好んで使う、リピーターの方々にはお馴染みのグラフ。昔の商品市場は"商品循環説"という見方が支配的でした。上ったものは下がり、下がったものは上がり、結局ゼロサムゲームを繰り返す、という考えです(最初の"静的商品サイクル"の図)。しかし、その後、中国、インドなどの新興大国の高度経済成長とかドル凋落傾向が強まると、"買い放し"の長期資金も流入して、その結果、短期投機マネーによる乱高下を繰り返しつつ、長期的に価格水準を切り上げてゆく(2番目の"動的商品サイクル"の図)形に変わりました。

さて、そこで、ご質問の大きな山ですが、例えば、850ドルで底を打った後に1200ドルまでつけて、その後ヒョットすると700ドルまで反落し、その後に1500ドルまで上昇するとか、それほどに乱高下(ボラティリティー)の大きい波が繰り返される、と言うことだと思います。兆ドル規模のヘッジファンド、政府系ファンドなどが先物市場に乱入してくれば、レバレッジも効かせての売買ですから、それこそ原油同様の荒れた展開になっても不思議はありません。これまで"乱高下"と言えば、1オンス100ドルも動くと大騒ぎでしたが、これからは、その程度は日常茶飯事。1オンス200-300ドルの値動きを繰り返すような展開になると思います。それが2020年くらいまで続くと言うのが、著名カリスマ投資家などの発言の意味するところでしょう。最も大切なことは、その間に中国、インド、欧米年金などの長期保有が蓄積してゆくことです。需給均衡点が切り上がってゆくのですよね。それが4年前は400ドルでした。現在は850ドル、4年後は1200ドルというのが筆者の見解です。

ただし、その間にヘッジファンドの空売りで600ドルの下値も見るかもしれないし、2000ドル近い瞬間タッチもあるかもしれない。とにかく、これまでの相場の常識は、もはや通用しないのですよ。かくいう筆者も2005年12月8日付け本欄"2006年の金価格展望"では、500ドルが需給均衡点、600ドルは高すぎる、などと書いています。さらに800-1000ドルなどという史上最高値更新説も流れているが、これは"バブルの兆候"とまで書いているのですよ。そこの時点で筆者が見抜けなかったのは、金ETFの長期保有残高が800トンを越えるほどに増えることでした。正直、そこまでヒットするとは思わなかった。やはり従来の商品市場の常識に捉われていたのですね。ベテランが陥りがちという落とし穴に、自分ではまっていました。それ以来、頭の中のハードディスクから"余計な"経験則情報を"消去"することにしています。

なお、1980年の暴騰暴落の比較について。80年当時は原油急騰のよるインフレとイラン関連地政学的リスク増大の二つの要因だけでした。今回は、それに加えて、ドル不安、中国、インドの新興大国の登場、低金利、金ETF、機関投資家の参入など、様々な構造要因が複合的に絡み合っていますので、上昇トレンドの構図が全く異なります。80年の1年ほどの暴騰暴落に比し、今回はすでに8年目。金市場に構造変化が生じているのですよ。

―金の取引において、現実に金現物が動く取引と帳面上だけの取引(先物、ETFなど)の取引の比率は、数十分の一から百分の一になると思いますが、それは完全なバブルではないですか?

2008年3月7日付け本欄"嵐の中の飛行"を読み返してください。その中にある"資源価格急騰の実態"の図を見直してください。そこで根雪の部分が"現物が動く取引"に相当し、新雪に当たる部分が"帳面だけの取引"ということになると思います。新雪に当たる部分は、ドカ雪もあるし、新雪雪崩もあるし、いかにもバブルっぽい部分でしょう。

なお、ETFも大証に上場されている金リンク債を裏付けとするタイプは"帳面上だけの取引"になりますが、ステートストリートが東証に上場を希望している現物拠出型の本来のETFは、800トン前後の金現物が実際に買われロンドンに長期保管されているわけです。(個人投資家が小口の現引きを出来るようなシステムではありませんが、マンションの住民が各自相応に持つ土地所有権みたいな感覚でしょう)。

それから商品インデックス投資なども"帳面上だけの取引"の範疇に入ると思います。

さてさて、まだまだ全ての質問に答えられていませんが、今日のところはここまで。

2008年