豊島逸夫の手帖

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金に対する論調の変化

2008年1月8日

昨日は米ビジネスウイークの金に対する論調の変化について述べたが、今日は英フィナンシャルタイムズ(FT)。

この新聞も従来は金に対して完全に"斜め"から見た記事が多かった。昨年8月15日にサブプライムショック-世界同時株安の連鎖で金も一時売られたときには、"これで金の投資媒体としてのヘッジ機能が無いことが実証された"と書いていた。そこには、金投資家はgold bug=金への熱烈な信奉者集団という固定観念があった。

それが新年1月4日付けの"Analysis(分析)"欄で、1ページを割いて"Bullish on Bullion(金地金に強気)"と題する詳細な記事で、金価格先高説を展開している。記事上の写真は、右肩上がりの矢印のカタチをした金地金。

"1980年の史上最高値に匹敵するには、物価調整済みの実質価格で2000ドルをゆうに上回る水準が必要である。"ビジネスウイークもFTも2000ドルというような価格をケロッと言ってのける論調なのだ。

FTの詳細な記事の内容は、本欄で繰り返し述べてきたファンダメンタルズについての説明である。とくに供給面で南アの凋落を詳しく報道しているところが、英国メディアらしい。

"鉱山事故の多発が労働者の安全性を求めるストライキとなり、これがコストを押し上げ、その結果、とくに事故リスクの高い深層鉱脈の生産は閉鎖される。"今や深く掘らねば金鉱石は採掘できないが、深く掘れば掘るほど安全性が阻害要因となるのだ。(穴を掘ればピュッと噴出してくれる原油とは大違い。)

"従来は開発計画から採算ペースに乗るまで3-5年だったが、今や、7-10年かかる。"

"金生産コストは2007年に前年比21%上昇して371ドルに"(まぁ、これは主としてドル安の為替要因だけどね-筆者注)

"このまま生産コストが毎年10%上昇し続けると、2015年には金価格が1420ドルにならないと採算が維持できない。"

金ETFに関しては、"残高が865トンに達し、世界第7位の金地金保有者に躍り出た。米国、欧州諸国などに次ぐ保有量なのだ。金ETFはpeople's central bank(人民の中央銀行)となった。このロンドンの地下深い金庫には、その大量の金塊が眠っている。"(世界の金ETF市場で80%の市場占拠率を持つステートストリート社のカストディアン=金塊保管銀行であるHSBCのことを指す。-筆者注)

2008年の価格レンジとしてはJPモルガンの750-900ドルを紹介。他社はもっと強気とも付け加えている。

いやはや、世界を代表する経済新聞の論調も4ヶ月でかくも変わるものか、というのが筆者の率直な感想である。

さて、日本のメディアの論調だが、寂しいのは、枕詞のように"投機マネー 金に流入"というように金=投機という固定観念から抜け切れていないこと。年金とか富裕層の長期保有が相場水準を確実に切り上げている実態が全く理解されていない。ヘッジファンドの派手な短期売買にしか目が行っていない。

それから、金は無用の金属という誤解も根強い。男性本位の発想で無視されるのだろうが、実需の7割が女性にとっては絶対必要な宝飾素材という事実。さらに、携帯、パソコンの部品としてのハイテク需要が年間500トンもあるという事実。こういう話を"金利を生まない金は無用の存在"とだけ見ていた一般メディアの記者さんにすると、"ヘェェ!知らなかったぁ!"という反応になる。金は商品とマネーの二面性を持つということが まだまだ伝わっていないと感じる。

最後に、今日の日経朝刊商品面のマーケット潮流底流に、志田編集委員が書いていますから、WGC新春セミナー受講者の方は"予習"しておいてください。その上で、彼の生の話を聞くと理解もさらに深まるはずです。4日からネットで先行告知しただけで(新聞告知前に)300名近い応募がすでに来ました。"毎日読んでます"とか"前回抽選に洩れたから今回は是非"というコメントに接すると、主催者側としてもやりがいを感じます。

2008年