豊島逸夫の手帖

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Sell in May and go away 2008年バージョン

2008年5月1日

FOMCは予想通りの25bp利下げに終わったが、声明文の書き方が至って煮え切らない。"景気の下振れリスクという言葉を削除したけど、まだ安心できないしぃ、インフレも安心できないしぃ、僕、困っちゃうなぁ"というベンちゃんの揺れ動く気持ちを行間に滲ませている。FOMC直前に発表された米国GDPも表面の数字より、中味(消費、設備投資)が良くない。"これでもう追加利下げ打ち止めと言いたかったけどぉ、やっぱりそうも行かないかなぁ"。ベンちゃんの心はさらに揺れている。

その煮え切らなさの割に、マーケットは、FOMC発表の前と後で、かなりはっきりした動きを示している。

NY株は、直前までダウで130ドルアップしていたのが、急落してマイナス11ドルで引けた。ドルは、直前まで104.70-80のドル高が進行していたのに、103.80まで一挙に円高、ドル安に転じた。債券は買われて急騰。10年もの米国債利回りが3.85%から3.73%まで低下した。

そして金はNY先物市場の引け後にFOMC発表というタイミングになったが、NY市場の公表引け値865ドルから、引け後には877ドルまで急騰。昨日は一時860ドルぎりぎりまで急落していたので、かなりのジェットコースター相場であった。

マーケット関係者のFOMC声明文の"英文解釈"は、真っ二つに分かれているのだが、結局のところ、事前には"これでいよいよ利下げ打ち止め"と身構えていたところを、肩透かしされたことで上記の反応が生じている。

さて、金市場だが、金ETF残高が742トンまで急減し、ここ2週間ほどで60トンの減少となったことが、さまざまな観測、憶測を呼んでいる。これをもって、商品から金、ドルへのマネー回帰と読むアナリストが多い。筆者も"一時的"という条件付きで同感である。(4月25日付け マネーの流れに"短期的"変調 参照)。

5月は株も金も下がることが多いので、Sell in May and go away(5月には売って修羅場から離れよう)と言われる。昨年4月27日にも以下のことを書いた。

(引用)
日本では連休直前。NYでは5月が気候もベストで外で遊ぶ(go away)には最適の季節。歌手のポールサイモンは"ニューヨーカーの最大のあこがれの贅沢は5月に休暇とることさ"と言う。

そこでマーケットにはSell in May and go awayという格言が生まれた。こんないい季節にはマーケットから離れて人生楽しもうぜということ。そのせいでもなかろうが、5月は株でも商品でも下がるパターンが多い。

相場にはまったニッポンジンの方々も多いけど、休むも相場ですぜ。とりあえず5月6日まではgo awayしましょう。

筆者もNYからのメールが届かない"圏外"に脱出します。
(引用終わり)

今年は、ドバイへ仕事で脱出したけどね。

場所を変えて、いま政府系ファンドのメッカとなりつつあるドバイに身を置くと、"行き場を求めてさまようオイルマネー"という陳腐化した見出しの意味するところを、改めて肌で感じるのだよ。巨額のマネーの運用が、株と債券だけでリスク分散できるはずもない、ということを。そして、ドル離れという言葉の深みも感じる。金利差でドル高、ドル安というレベルより、政治的、宗教的な理由でドルを持ちたがらない。ドル離れというよりドル嫌い、という感じだ。なんと、ドルを使わない"嫌米債"というネーミングもあるくらいだからね。

いま、欧米市場では、利下げ打ち止め=長期ドル安トレンドの終焉=長期ドル高への転換というシナリオがしきりに語られる。(昨晩は たまたまドル安に振れたけどね)。最近の金ETF残高の背景も、ここにあるといってよい。でも、原油高騰でカネの有り余っている国から見ると、信用収縮でカネに困っている欧米市場の希望的観測かと思えてくる。

今回は中東に身を置いたが、中国に出張するときにも、同様の欧米市場とのperception gap(感覚の違い)を感じる。上海の街角で、夜の新宿歌舞伎町のような人ごみに揉まれていると、この国の13億人の人たちが、(贅沢とはいわない)最低限の生活を営むだけでも、エネルギーなどの資源がどれほど必要か、ということを肌で感じるのだ。

中東に居て、改めて感じること。それは、グローバル経済が、"アジア中東が債権国。欧米は債務国"という事実。この構造が変わらぬ限り、金の長期上昇トレンドが変わるはずもない、ということをドバイで確認した。だから、欧米ヘッジファンドが決算期対策で手持ちの金ETFを売るときは、黙って見ていればよい。Sell in May and go away. 休むも相場。

というわけで、筆者も帰国して、連休後半は福島の山奥で山菜取りにいそしみたいと存じます。

2008年