2008年6月3日
今日は4月1日付け本欄の首題原稿の続きで、食糧問題について考えてみたい。穀物価格急騰は、シカゴ近郊農家に"俄かリッチ層"を生んだが、同時にエンゲル係数の高い貧しい国の経済を直撃した。昨晩のワールドビジネスサテライトでは、高度な生産技術と大規模生産の米国米輸入を自由化したものの、コメ価格急騰の影響をモロに受ける結果になったハイチからの現地レポートを流していた。
今日から、ローマでは"食糧サミット"開催。この問題の根本的解決策は何だろうか。考えてみた。1950-70年代に"緑の革命"が世界の農業を飛躍的に変えた。高品位種子、かつ、干ばつや害虫に対する耐性の強い種子が開発。ダム、貯水池、運河などの大型開発で灌漑インフラも飛躍的に改善。そして、炭化水素等を利用した科学肥料、殺虫剤の開発。
その結果、生産性は急速に向上。小麦1ヘクター当たり収穫量は500キロから3000キロに増えた。かくして農産物の生産量は飛躍的に増加し、慢性的供給過剰に陥ることになる。マーケットに溢れるモノの生産をさらに増加させるための技術開発の必要性は薄まり、新規開発投資も激減する。技術革新が遅れれば、生産性は落ちる。農産物の生産性の伸びは1970-90年代には年率2.0%平均だったが、1990-2007年には1.1%へ落ち込んだ。このままでは2007-2014年には0.8%へさらに低まると言う。
その間、農産物を取り巻く世界の情勢は激変していた。世界的人口増加の"爆発"。新興国の食肉摂取などの食習慣の変化。バイオ燃料開発。そして原油高騰。
この窮状を打開するには昔の"緑の革命"の発想では無理である。高品位種子開発はバイオ技術開発頼みだが、GM(遺伝子組み換え技術)には消費者の強い抵抗がある。異常気象、農村部の都市化、工業用地の拡大は水資源活用を妨げる。原油高騰で化学肥料の価格も急騰。
こうなると 第二の"緑の革命"のテーマは、量より質となる。農産物生産にあたり、水、肥料をいかに節約するか。ここでは、新興国農家の資源節約意識を高めるような教育も必要になろう。食料危機で飢餓に瀕する人たちを救う必要性と、GM(遺伝子組み換え)に対する世論のアレルギー反応のどちらを採るのか、究極の判断も迫られよう。それこそ食糧サミットで徹底的に議論する必要があろう。バイオ技術に対する新規投資促進ももちろん大切だが、平均10年はかかる話ゆえ、即効性はない。
結局は 先進国から開発途上国への"補助金=カネ援助"しかないのかな、現実的には...。鮨屋で"トロ"当たり前の飽食文化も行き過ぎだよね。我が家の飼い猫モモちゃんは、飼い主の甘やかしですっかり贅沢になり、特定のペットフードしか食べない。彼女の残り物を庭先に来たノラちゃんにあげると争って食べてゆく。
人間の世界も同じようなものだ。サラリーマン、OLが一回の飲み代3000円を、行ったと思って飢餓に瀕する国々への寄付に回せば少しは貢献できるかな、とも思う。
最近、外資系金融機関に働く者たちの間でオックスファム(www.oxfam.jp)という活動が広まっている。この中のトレールウオーカーという100キロ耐久競争が先日開催され、筆者の外資系金融機関の友人も4人一組のチームを組んで、雨の箱根、富士山近辺を歩き廻った。筆者は、100キロはとても無理なので、せめてネット経由の資金援助のお手伝いをした。こういう草の根運動こそ、食糧問題打開の入口なのかと思う。