豊島逸夫の手帖

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歴史は週末に作られる

2008年9月8日

先週金曜日のNY市場が引けてWSJ(ウオールストリートジャーナル)がファニー、フレディーへの抜本的救済策発表の可能性を報じてからマーケットは大騒ぎ。失業率6.1%という同日午前発表のショッキングなデータも吹っ飛んだ。

そして、週末のポールセン財務長官記者会見。GSE(米住宅公社)2社の実質的国有化である。結局は政府による全面救済の道を選択せざるを得なかった。その引き金となったのが金曜日の世界同時株安だろう。

ポールセンの記者会見で、想定外の救済策と思われるのが、
―GSE債の買い取りに応じるという債券市場に対する流動性確保の保証。これはGSE債を大量に保有する中央銀行に対して"ご心配おかけしましたが、皆さまだけには損はさせません"というお詫びのジェスチャーか。
―住宅担保証券を50億ドル相当買い取る。これはサブプライム問題自体がまだ底を打っていないことを認め、追加的救済策を打ち出したわけだ。

これで小康状態となるだろうが、全身麻酔で大量に輸血とステロイドを投与して痛みを緩和する処置を施しただけで、患部の病巣を除去するまでには至っていない。ICUから普通病棟に移り術後経過を見守る段階に入る。

合併症として懸念されるのが、
―GSE2社の普通株式を大量に保有する米国地銀の経営不安
―史上最大の企業救済に公的資金が投入されることで、ただでさえ来年1兆ドルに迫るかと懸念される米国財政赤字の悪化が加速する懸念

故に、常識的に考えれば、外為市場ではドル高に振れるはずだが、実際には、おいそれとドル買いに突っ込めない状況だ。ベンチマークのドルユーロには、とりあえず大きな動きは見られず。

ドル円は円安ドル高に振れている。金融不安小康状態となれば投資家のリスク許容度が増し、キャリー復活という連想である。リスク資産への回帰が連想される。

金価格は月曜早朝からいきなり10ドル高。米国市場の時間外取引でショート(空売り)していた連中が、気持ち悪いからとりあえず買い戻しているような状況で、この価格に信頼性は無い。(先週金曜日は雇用統計の予想を超える悪化で利上げ観測後退。一時820ドル近くまで急騰したものの、商品撤退モードの投機筋から大量の戻り売りを浴び、795ドルの振り出しに戻っている)。

今後の長期的問題はGSEの解体。分社化して住宅ローン市場の流動性は確保しつつ、GSEの機能を民間に移すという本格手術が数回に分けて実施されるであろう。それで米国不動産価格が底を打ち持ち直すか否かは、"手術成功の可能性は五分五分"というところか。

株式市場は、空売りの買い戻しでベア―マーケットラリー(売りの大きな流れの小休止程度)となろうが、投資家が安心して新規買いを入れられる状況にはまだ距離がある。

なおNY金先物買い残は更に37.6トン減少し、ついに300トンを割り込み289.9トンになった。長期的には、新雪は消え、根雪だけになった感じはあるね。

2008年