2008年1月28日
最近、金価格が注目され、市場の裾野が広がるに連れ、改めて"金価格上昇=単なる投機マネーのバブル"という固定観念の根強さを痛感しています。たしかにヘッジファンドなどの投機筋が先物市場で2-3か月サイクルの短期的売買を繰り返し、価格の乱高下を引き起こしています。しかし、同時並行で、欧米の年金基金とか中国、インドの現物購入などの長期保有が急速に増えていることこそ価格水準の切り上げをもたらしているのです。この部分がなくては、短期的売買の繰り返しだけで、価格水準が徐々に切り上がってゆくはずもありません。
イメージ図で示せば、投機マネーだけのゼロサムゲームの場合がこれ。
次に、金ETFなどを通じて800トン(中国年間金需要量の3倍近く)の現物が長期保有保管され、短期的乱高下を繰り返しながらも、価格水準が切り上がる展開がこれです。市場にダイナミックな構造変化が生じているときに見られる典型的パターンです。
これに関連して、もうひとつの誤解は、投機だから一攫千金ねらいにリターン志向のみという固定観念。今回のサブプライム発、金価格上昇の過程では、金がリターン追求というより、リスクヘッジとして買われていることが大きな特徴です。CDOなどの複雑化した仕組み商品が、紙クズ同然になってしまった経験をした投資家が、運用対象を多様化して、とくに原油高に起因するインフレリスクや、信用不安、地政学的要因のイベントリスクに備える、という発想です。
筆者の率直な感想では、金市場を外から見ている人は自分の価値基準で、金なんて所詮は投機さ、と考えがちで、実際に金を買っている人たちの気持ちとのズレが相当あります。コメンテーターの方々も、金についての勉強不足で、とりあえず"いやぁ、上がるものはいずれ下がるでしょう。もっと冷静に見るべきですねぇ"という具合に無難な表現で切り抜ける。
実際に今回受けた一連の取材の過程でも、上記のイメージ図などまで使って30分、ていねいに客観的に上がるシナリオ、下がるシナリオも含めて説明した挙句、報道された内容は"投機マネーにおどらされバブルの金市場"という結果がよくありました。現場取材の記者の方々の理解は得られても、社に持ち帰えると、上層部の方々が自分の価値基準でシナリオを作るというパターンです。
WGCという非営利の国際機関が主催するセミナーに参加している人たちは、ごく普通の団塊の世代、主婦、夫婦連れなどの方々ですが、皆、投資なんてリスクは避けられず甘くはないという基本的認識は持っています。そのうえで、資産を守るひとつの手段として金にも注目している、ということが実態だと思います。応募のFAXやメールを見ていても、800兆円の借金を抱えた国に住む国民としての不安を切々と書き記すシニア層や、四国の農家、鳥取の漁業、奈良の商店主などさまざまな分野の人たちが投資のリスクにどのように立ち向うべきかと悩む様子なども窺えます。政府の掲げる貯蓄から投資へというスローガンは、言うは易く、行うは難しの典型と痛感するのです。
投資の主役は株、債券。その目減りを補う脇役として金。攻めは株、守りは金。だから、せいぜいポートフォリオの10%程度に抑える。買うときもまとめ買いせず、こつこつ積み立てる貯蓄感覚。金を資産保全で保有し、それが役立たないことが実は一番望ましい。でもサブプライムなどを経験すると、役立ってしまう事態もあるということではないでしょうか...。