豊島逸夫の手帖

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7年間続いたドル安トレンドの終焉??

2008年5月8日

ドルは対ユーロで1.53台、対円で104円台まで反騰。これまで円高、ドル安予測が圧倒的に支配していた外為市場に、センチメント(ムード)の変化が見られる。

どんな相場でも、いつまでも下げ続ける相場は無い。7年間続いたドル安トレンドにも、そろそろ終止符が打たれるのではないか、という見方が浮上してきている。この潮流の変化の兆しこそが、原油120ドルにもかかわらず、金価格の頭を抑えているといっていい。それでは ドル高説の根拠は何であろうか。

1.

FRBが利下げ打ち止め近し、との観測。他方、欧州はユーロ圏の景気に暗雲が漂い、いくらインフレ懸念とはいえユーロ金利を下げざるを得なくなるのでは、との観測。ドル金利の今後は → または ↑。対してユーロ金利の今後は → または ↓。その示唆するところはドルユーロ金利差の縮小である。もしそうなれば、一方的ドル安トレンドが継続するシナリオは考えにくい。


2.

先週の米雇用統計が予想より遙かに良い(というか、ましな)数字だったので、"ホントにリセッションなの"という景気後退に対する懐疑論が浮上してきた。このようなマクロ指標を受けて、昨晩もカンザス連銀が、米国金融引き締めを示唆する発言まで飛び出した。(このような連銀のスタンスの転換こそ、筆者が中期的金価格下げのシナリオで挙げてきたことはご存じのとおり。ただし、この発言は現時点で極論ではあるよ。まだまだ米住宅価格の下落は止まらないのだから)。


3.

米国株式も、昨晩は急落したものの、一時の超悲観論は影を潜めた。


4.

欧州経済については、ユーロ高が輸出産業を直撃していることが消費を抑えている。イタリアの伝統あるゴールドジュエリー産業なども壊滅的状況で、トルコ、インドネシアなどに追い上げられている。


このように見てくると、魚の目で見ると、ドルの潮流に変化の兆しが見られる。
しかし、鳥の目で大局を俯瞰すれば、米国、そしてドルに対する不安感は根強く残る。それは単に金利差などの経済的理由ではなく、中東の嫌米感情。原油高騰で一番潤っている国々が宗教的、政治的理由で米ドル保有を嫌っていること。ドル離れの要因は複合化しているのだ。同様の感情は中国、ロシアも程度の差こそあれ共有するところだ。

そして、世界の投資マネーの7割は米ドルで保有されているという事実。どんなポートフォリオ理論を持ってきても、一国の通貨を全体の7割も保有するというのは、資産配分原理で正当化できる話ではない。そのような偏ったポートフォリオのリバランスは必至。つまり、ドル離れというのは、何もドルを全部売り払うというような極端な話ではなく、ドル配分比率を7割から5-6割に低めるという多通貨ポートフォリオの銘柄入れ替えなのだよ。ゆえに、対ユーロではドル安が終わったとは到底思えない。

難しいのは、対円がどうなるか。サブプラ金融不安が緩むと、リスクマネーがまたぞろ活動を開始する。そこで再び超低金利通貨の円を借りてリスク資産で運用する円キャリー復活となる、という円独自の円安材料を抱えているので円高、ドル安の継続と簡単には言い切れないのだ。

いずれにせよ、欧米の金市場が、ドル高、ドル安のベンチマークとしてウオッチしているのは圧倒的にドルユーロなので、今後も長期的にはドル安=金高の構図は変わらないと思う。

ドル安という言葉を使うと日々変動する外為レートをイメージするが、今、一番の問題はドル不安。ドル凋落という歴史的視点こそが肝要なのだ。

2008年