2008年6月25日
ベトナム政府は急増する金輸入に歯止めをかけるべく一時停止措置導入に動いた。同国経済の窮状は、今朝の日経本紙国際面"新興国経済点検"にても特集されている。食料品価格急騰等で消費者物価上昇率はなんと25%!貿易収支赤字幅も今年前半で3倍増の170億ドル。当然、通貨ドンはブラックマーケットで2桁の急落。このような経済状況に置かれた投資家が金を買わないほうがおかしい。というわけで、金輸入量も今年1-3月は71%増の36.8トン。このペースを放置すれば1年で100トンを越す金輸入量になってしまう。それは、国際収支赤字をさらに悪化させる。という背景の中での金輸入停止措置なのだ。当然であろう。
ベトナムと言えば、国外脱出のボートピープルが金塊で乗船料を払ったというエピソードが残るくらい、金選好度の高い国柄である。ということは、政府が禁止措置を講じても取引の舞台がブラックマーケットに移るだけのような気もする。
次に、一昨日のNY寄り付き金急落劇は派手だったので、外為市場の関心も集めた。金急落がドル買いを誘うという連関である。ドル高で金が売られるというのが通常のパターンだが、場合によっては金安でドルが買われるというケースもありということだ。今朝の日経本紙マーケット総合面の"外為"記事の中で筆者のコメントが引用されているのも珍しい。(筆者が本当に言いたかったのは、短期的にはドルがoversold=売られ過ぎの巻き戻し、金がoverbought=買われ過ぎの巻き戻し、NY金先物買い残はまだ470トンあるし、ということだったのだけど)。債券市場はインフレ懸念のベンチマークとして金価格を見る傾向があるので債券関連の取材はよく受けるけれど。
まぁ、筆者の経験でも、外為デスクとゴールドデスクとは同じ銀行の中でも常にお互いをウオッチしながらディーリングするから、金急落=ドル買いという連想に、現場の感覚では違和感は無いけどね。
さて、そのドル相場だが、今日のFOMCの影響は当然として、最近はECBの言動も大きな材料になっている。一貫してインフレ重視の姿勢で臨むECBだが、そこには景気の温度差の異なる国々を相手に、共通の金融政策を発動せねばならぬ苦悩が見え隠れする。
話はいきなり飛ぶが、筆者が自宅の風呂に入るとき、最初足から入った瞬間は アッチッチと言いながらも、中まで足を入れると意外にまだぬるま湯だったりする。そこで、慌ててお湯をかき混ぜることもしばしば。この温度差こそがECBを悩ます。欧州諸国の経済環境は同一ではない。
ドイツは足元の経済統計が芳しくないが、トレンドとしては"健闘"している。対して、フランスは成長鈍化。イタリアもあぶなっかしい。スペイン、アイルランドは不動産ブームが去って宴の後状態。そこに一律に利上げを実施すれば 悲鳴を上げる国が少なくない。
そこで、"お湯をかき混ぜる"ことが出来れば良いのだが、それは、実体経済では、労働者が景気の悪い国から良い国に自発的に移住することを意味する。経済学の用語を使えばlabor mobility(労働力の移動性)が高ければ、一律の金融政策でも影響が平準化されるのだ。(それこそが、国境を撤廃するEUの究極の理念でもあった)。でも、実際には"故郷捨てがたし"の気持ちは万国共通。そう簡単にお湯はかき混ぜられないのだよね。
かき混ぜられなければ、他の方法は風呂の設定温度を高くするか低くするか。今、ECBは物価上昇過熱を防ぐべく、金融引き締めによる設定温度の低下に動いている。これでは、風呂桶の底のほうのぬるま湯は冷めるばかり。そこでアイルランドのように、EUに拒否反応を示す国がこれからも出るは必至。ここにEUそして共通通貨ユーロのアキレス腱がある。ご存じユーロ好きの筆者だが、この点だけはリスク要因として意識している。
最後に、足元の金市場は昨日890ドル前後で推移。マーケット指標で目立つのは、一時740トンレベルまで急減した金ETF残高が782トンまで再増加してきたこと。利益確定売りが一巡して値頃感から新規買いが入りつつある兆しと読める。一昨日のNY寄り付きに見られたような電子取引のプラットフォームに時折飛び交う玄人衆の大玉は所詮ゼロサムゲームだが、長期買いの金ETF残高が増加再開の現象は相場水準の底上げを示唆する。この現象は、米国金融不安再燃と無関係ではないよ。