豊島逸夫の手帖

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小麦、鉄鉱石、そして石炭までも

2008年2月19日

小麦30%、鉄鉱石65%の値上げ。今朝の日経朝刊3面で、WGCセミナーの相方でお馴染みになった志田富雄編集委員が書いている。"高騰が止まらない石炭などでは、24時間以内に提示価格を受け入れなければ、さらに価格を引き上げられてしまう"。資源メジャー、中国が圧力、という。

石炭といえば、我々日本人には映画"フラガール"に描かれた常磐炭坑とか夕張のイメージが浮かぶ。"斜陽産業"の代名詞だった石炭が"ルネサンス"と言われるほどに生き返った理由は、"クリーン コール"という環境にやさしい生産技術の開発、そして豪、南ア、中国など生産国に起こるサプライ ショックであった。さらに、原油高騰により、中東のエネルギー支配から脱するための安定的代替資源としても浮上した背景もある。

最大の需要国は日本、韓国、台湾で世界の40%を占める。そこに中国が台頭。需給逼迫をもたらしたのは供給サイドのサプライ ショック。まず、最大の生産国である豪が、異常気象による豪雨。南アでは、昨日プラチナ価格で述べた電力危機。中国は、歴史的寒波の余波で国内需要優先のため、2ヶ月間の石炭輸出禁止。なお、需要サイドでは、日本の柏崎原発事故で火力発電への依存度が高まったことも挙げられる。

かくして、"豊富で安価な資源"から"サプライ ショックに揺れる稀少資源"の仲間入りをした感のある石炭。価格交渉力を見れば、完全な売り手市場なのだ。提示価格も24時間以内に飲まざるをえない。国内の影響は、電力料金の引き上げか。

今後の石炭価格見通しは、3-4月にかけて、さすがに緩む局面もあるが、基本的には高止まりという。鉄鉱石にしても石炭にしても、さすがに投機マネーの踊る余地は少ない。ヘッジファンドが短期的売買益を求めて参入できるような市場ではないが、企業買収ファンドとか政府系ファンドがM&Aを通じて資源メジャーの一角に資本参加を目論んでいる面は見逃せない。

本欄2月5日付け"米中連合軍 暁の急襲"で詳説した、BHPとリオティントの資源メジャーに食い込もうとする中国アルミのストーリーも、元は中国の鉄鉱石供給確保という国家的政策の中でチャイナマネーが動き出した例と言える。そんななかで、"道路財源"などに国会の議論が集中し、グローバルな資源確保競争には完全に出遅れた日本。

たまたま、今夜OAのテレビ東京系ワールドビジネスサテライトでは、なけなしの資源とも言える国内の金鉱開発の実態と、先物金上場に湧く上海の最新映像などが紹介される予定。金価格上昇も、"限りある資源、膨張するマネー、凋落するドル"の象徴的現象なのだ。

2008年