豊島逸夫の手帖

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サブプライム汚染地域分布状況

2008年6月10日

米系銀行に比べ、欧州系銀行のほうがサブプライム関連損失が多い。それに対する資本増強は遅れているという結果が、IIF(Institute of International Finance)という機関から発表された。

それによると、これまでのサブプラ関連損失の総額は3870億ドル(約40兆円)。その内訳は欧州系が2000億ドル、米系が1660億ドル。対する資本増強は、欧州系が1255億ドル、米系が1410億ドル。この結果が示唆するところは、米国人低所得者向け住宅ローンを証券化し細分化して世界中にばら撒いた米系投資銀行などは、結果的に欧州系銀行にリスクを転嫁させたということだろう。

椅子取りゲームみたいなもので、後に残ってしまった欧州系銀行の間では、まだどの銀行にどの程度サブプラ関連のリスクが残っているか不透明な部分が多い。ゆえに、今後、何かと噂の対象になろう。米国の貿易収支は赤字だけれど、リスクに関しては輸出国のようだ。

何かと言えば噂に出るリーマンブラザーズだが、第二四半期に28億ドル(約3000億円)の損失を計上し、60億ドルの増資発表。"やっぱり"ということだが、リーマン側は、この資本増強がサブプラ関連などで毀損したバランスシートの補強ではなく、将来のビジネス拡大に向けて投資家の不安感を鎮めるためと説明。今回明るみに出たことは、サブプラ関連債券などの損失を埋める目的で実行されたヘッジが効かなかったこと。手法としては、サブプラ関連債券などのインデックス(指数)をショート(カラ売り)するという"金融技術"なのだが、結果的にはそれでカバーできた損失が17%程度にしかならなかったとのこと。目論みが外れた最大の理由は、FRBが適格担保債券の種類を拡大し、さらに証券会社も債券買い取り対象に加えた例の新救済策。この想定外の措置で、投資銀行は"ヘッジに頼らずとも何とかなる"との判断で、一斉にヘッジ外しにかかった。彼らが一斉に空売りの買い戻しに走れば、先述のインデックスの価値は急騰するから、結局、大した売買差益は得られず、ヘッジの効果もさほど出なかったというわけだ。

今や、リーマン株そのものが、株式市場で空売りの対象となり、狙われている。リーマン株ショートがウリのヘッジファンドまで現れる始末。先日書いたことだが、レバレッジで利益を増幅させるという"得意技"が使えなくなったので今後の収益見通しは暗い。

空売りで大けがと言えば、ここ1週間の原油市場でも、投機家がショートで大損している。120ドル台で需要減少観測のなか競ってショートに走った投機筋が見事にやられた。よく"原油市場に投機マネー流入"ということで投機家が大儲けしているイメージを描きがちだが、今回は大損。大儲けも大損もあるからこそ"投機"なのだね。所詮ゼロサムゲーム。

さて、足元の金価格は910ドルまで買い上げられた後、原油5ドル安を映し、再び900ドル割れ。ポールセン財務長官の介入示唆発言によるドル反騰も効いた。金の調整局面続く。

なお、最近の動向で注目点は、850-880ドル程度のレンジになると、鉱山会社のヘッジ買いと思われるまとまった買いが入ること。インドの実需がイマイチなのに850ドルを割り込まなかった要因がここにある。南ア最大のアングロゴールドは今年300トン前後のヘッジ買い戻しを宣言しており、相場が下がったところで、こまめに買いを入れているようだ。

2008年