2008年3月10日
いま、欧米の債券市場で風雲急を告げている。米国の銀行はこの5年間で不動産融資を75%も増やし、その影響もあって住宅価格は41%も上がった。その住宅関連投資に目をつけたヘッジファンドは、出資者の出資額に銀行借り入れを上乗せして巨額の投資資金を投入した。そのバブルがはじけ、いま巻き戻しが始まっている。サブプライム関連投資はもちろんだが、最も安全とされるトリプルA格付けを持つ証券価格が史上最低の水準にまで急落。そこに集中投資していたヘッジファンドが、銀行からの融資返済要求に応じるために、"保有資産の切り売り、投げ売り"を始めたのだ。
サブプライムローンの残高1兆円に対し、米国住宅ローン全体の規模は10兆円。さらに、投げ売り市場で、たとえば簿価の7割の値がつくと、会計監査上、時価評価を要求されている銀行は、手持ちの住宅ローン債権も7割に引き下げねばならない。ここに問題は銀行に飛び火する。いま、欧米の銀行同士が疑心暗鬼になって、銀行間資金融通市場から資金を引き揚げている。こういう現象が、英国ノーザンロックの"黒字倒産"劇を引き起こしたことは記憶に新しい。別に節度ない融資をしていたわけでもないのに、普段であれば何の問題もなく資金調達できるはずが、即日出来なくなり、資金ショート起こしたわけだ。
このように、サブプライム問題が優良ローンにまで拡大したことが、負の連鎖を生み、この影響が株式、金にも及んでいる。ヘッジファンドの流動性確保のため、まずは"まともな値がついて売れるもの"から、片っ端に売却処分してゆくからだ。これを英語でファイアセールという。ちょうど1年前の2007年3月7日本欄"ファイアセールからバーゲンセールへ"と題する原稿でも述べた現象だ。
ここで、直近勃発したヘッジファンド破たんの例を検証してみよう。まず、カーライル キャピタル。昨年7月に設定されたばかり。なんと自己資本の30倍もの資金を借入れ、2兆2千億円相当のトリプルA住宅ローン債券を購入していた。これらは、米国二大住宅金融公社のファニーメイとフレディーマックが暗黙の了解で保証していたようなカタチになっている。ところが、ファニーメイの住宅ローン債券の利回りは、今や米国債に対して22年ぶりの相対的低水準に沈んだ。カーライルキャピタルは、銀行団からのマージンコール(追加証拠金積み増し)に答えられず、デフォルト(債務不履行宣言)を受けるに至る。
そして、ペロトン パートナーズ。同社の2千億円の旗艦ファンドが先々週破たんした。証拠金比率が突如2倍から3倍に跳ね上がり、といって保有住宅ローン債券に買い手もつかず、あえなくデフォルト。この証拠金比率をギョーカイ用語でヘアカットと呼ぶ。当該資産の価値が下落すれば、当然ヘアカットの水準も"短髪"から"長髪"へ、引き上げ要求される仕組みだ。今回は多くのヘッジファンドが突然ヘアカットを2倍から3倍に引き上げられた。全く想定外の事ゆえ、ヘッジファンド破たんの連鎖が危惧されているわけだ。
先週金曜日には、プラチナが1日でなんと159ドルもの暴落。きっかけは南ア電力供給が回復見通しとの報道だが、市場の反応が、まさに観衆が一斉に非常用出口に殺到する"劇場のシンドローム"の様相を呈した背景には、上記のような"信用収縮"現象があることを忘れてはならない。
そして、この負の連鎖が金市場にも波及は必至。すでに、ドル安、原油高にも関わらず金価格が続落している事実が、それを示唆している。5月11月のヘッジファンド決算期によく見られる現象だが、今回は信用不安のリスクの連鎖という特殊事情で、3月にも起きそうな気配が出てきた。