2008年5月13日
イランは世界第二位の天然ガス埋蔵量を持つ国。そこで、エネルギー資源確保に奔走する欧州やインドが相次いでイランに接近して、米国のご機嫌を損ねている。国連経済制裁も核、ミサイル、銀行取引の分野が中心で、資源セクターは対象となっていない。少しでも"お友達"を増やしたいイラン、少しでも"エネルギー供給源"を増やしたい欧州とインドの思惑が一致したカタチだ。
まず、欧州関連では、スイスのEGL社がイランと今後25年間に亘る天然ガス供給協定を締結した。これまでの非公式のメモランダムの交換から一歩大きく踏み込んだ正式の契約関係の樹立である。スイス側の説明ではイタリアのエネルギー不足を補給する目的とされる。
このスイスの動きに刺激されて、オーストリアのOMV社、さらにフランスのTotal社などが後に続きそうな様相。米国はスイス政府に圧力をかけているが、スイスは我が道を行く国である。対して、イランは6月中に返事がなければ他社と交渉すると、OMV、Total、さらにはロイヤル ダッチ シェルに決断を迫っている。
そして、インド。イラン大統領のインド訪問の最大議題が、イランとインドを結ぶ2600キロメートルのパイプライン敷設プロジェクトである。当然、パキスタン領内を通るから3国間のさや当てが不可避。とくにパキスタン領内の通過料を巡る交渉の行き詰まりなど、インドとパキスタンの間の軋轢がプロジェクトの進行を阻んできた。ところが、ここにきて、インドとパキスタンの原油相が急接近。6月末までにはイラン、インド、パキスタンの三カ国で正式にパイプライン建設協定が締結されそうだ。これには、当然、米国は不快感を露わ。盛んにニューデリーにプレッシャーを掛けている様子。ただ、米国とインドの歴史的核開発協定が、インド国内の共産党連合の反対でブロックされているだけに、インド政府としても、イランにヘッジしておく必要があるのだろう。かくして資源問題は、イラン経済制裁の抜け穴となり、中東の地政学的景色を変える可能性を秘める。
米国の出方次第では、かなりもつれる問題となるかもしれないので今後もフォローしてゆきたい。