豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. ドバイからのゴールドレポート
Page476

ドバイからのゴールドレポート

2008年4月30日

ドバイは今や政府系ファンドの中心地となりつつある。大手投資銀行リーマンブラザースは政府系ファンドのみを対象にする特別部門を創設するが、その本部をドバイに置く。ロンドンなどから外人部隊30名を集めて、政府系ファンドに対する投資顧問、コンサルタント業務を行うという。欧米大手投資銀行も サブプラでこれまでの花形ハイイールド部門の商売があがったりなので、新たな分野開拓に必死なのだろう。

インドも遅ればせながら政府系ファンド組成に動き始めた。国際収支が不安定な国なので、まずは5億ドル程度から地味に始める模様。

注目のADIA(アブダビ投資庁)は、巨大なビルに1400名もの外人助っ人部隊をかかえる。そもそもアラブ首長国連邦は外人労働者が8割近くを占める国柄である。ADIAといっても、実態は欧米投資銀行出身の欧米人が多い政府系ファンドというよりは、アラブの巨大投資銀行と言ったほうが実感がある。一時は外為、貴金属市場の暴れ者で、市場のかく乱要因でもあったが、最近は政府系ファンドに対する国際的警戒感を意識して、ずいぶんとお行儀が良くなった。"金持ち喧嘩せず"ということか。

中東に来ると、BRICsではなくGRICsだと言う。B=ブラジルより、G=Gulf湾岸諸国。確かに政府系ファンドなどの巨大マネーの流れを見るかぎりGRICsの時代かとも思うのだ。

さて、ドバイのもうひとつの姿が、インドや湾岸諸国へのモノの流れの中継基地ということである。金の場合にはインドへの金供給基地となっているので、ドバイの動きが実需のバロメーターと言われる。その金の流れだが、先週は安値圏で南インドを中心にかなり引き合いがあったが(5月は現地のフェスティバルシーズン)、今週価格が反騰すると、模様眺めに転じた。今日はまた下がってきたので実需買いが出ている。やはり価格に敏感である。900ドルになると実需買いも引っ込むので、あくまで下値を支えるというのがドバイの役割と言える。相場が900ドルから、再度、上をトライするには、やはり欧米の投資マネーの流入が必要である。

ドバイへの金のリサイクル還流は、当面大きな動きがない。年末にかけては先高感が強いので、安値圏で売り戻すことは控えているようだ。リサイクル面ではインドより中東の方が、一般的にはるかに活発だ。インドの金宝飾品需要は婚礼などのセレモニー需要が主体なので、金製品に対する愛着が強いのか。対して、中東は、金宝飾品も資産の一部とみなし、価格が上がればドライに利益確定のために売り戻す。

なお、インドの最近の特徴は、宝飾品需要より金地金などの投資需要が優ってきたこと。とくに最近の高値圏から新規参入してくる人たちが目立つ。日本で過去に買った人たちが列を作って売り戻している光景と対象的に、これから もっと上がると見て新規に買うひとたちが多い国柄なのだ。

ドバイに居て感じることは、インドより遥かにリッチな国ということ。インドの空港に降り立ちタクシー乗り場に行く途中では、人ごみの中をわけもなく触られながら歩かねばならない。対して、ドバイは遥かに秩序があり整備された都市である。(あまりに人工的に作られた都市ではあるけどね)。原油を輸入する国と、輸出する国の違いがはっきり浮き出ている。

ドバイにせよ、インドにせよ、こういう地域に来ると金に"長期的"には弱気にはなれないね。欧米のヘッジファンドの短期的売買が、ますます虚しいゼロサムゲームに見えてくる。

なお、ドバイでも、足元の金価格見通しではFOMCの言葉が飛び交い、CNBCなどの経済チャンネルに見入っている。こういう光景を見ると、ディカプリングよりリカプリングなのかと思えてくるのだ。

NY市場では金価格が870ドル台まで急落中。筆者の想定していたレンジの下値880ドルを割り込んできた。FRBの利下げサイクルに打ち止め感が強まる中で、ドルは反騰モード。明日のFOMC利下げの材料もさることながら、その先に見える潮の流れの変調を先取りして、金利を生まない金が売られている様相である。ここまで来ると、本欄(3月7日付け"嵐の中の飛行"参照)で述べてきたように、根雪の850ドルが下値の目途。インドなどの実需買いは確実に進行して下値を支える。金ETF残高が753トンまで急減しているのが気になるが、これは金ETFを購入してきた一部のヘッジファンドの換金売りと見られる。5月はヘッジファンドの決算売りが出やすい月でもある。その前触れとも理解できる。当面は下値模索が続こう。

2008年