豊島逸夫の手帖

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海外に農地を求める資源獲得競争

2008年5月15日

中国の飽くなき資源獲得のための戦略については本欄でもしばしば触れてきたが、その一環として最近注目されているのが、アフリカ、南米(ブラジル)に進出しての農地買収の動きである。これは、一歩間違うと、相手国家の主権に関わるデリケートな問題に発展しかねないリスクも抱合する。だから、フィナンシャルタイムズ紙は、"食糧獲得の為の投資か、帝国主義的領土拡張か"などと書いている。

同様の動きは中東諸国にも見られる。彼らの最大のアキレス腱は食糧資源である。そこで、UAEは、同国買収ファンドがパキスタンの農地取得を全面的にバックアップする構えだ。農地を買収されるホスト国のほうから見れば、領土主権を脅かされるという危惧はあるものの、外資導入により、農地開発に資本、ノウハウ、そして消費マーケットまでパッケージでオファーされてくるのだから、一概に悪い話でもあるまい。ただ、歴史を紐解けば、大英帝国の植民地主義の典型であったプランテーション経営(搾取)とか、米国CIAが食糧を求めてグアテマラに侵攻するなど、良からぬ例も少なくない。

現実的な妥協法は、ホスト国が脅威に感じた場合は、同国からの食糧輸出に関税、あるいは輸出枠制限などの規制を課すことは可能だ。国家主権を守るための当然の措置として認められるであろう。また、自国内の中小農家を保護するために、中小農地の買収には歯止めをかけることもできる。あくまでホスト国の主権、経済を尊重しつつ、必要に応じて農地買収を進める方法はあるはずだ。いまや、貴重な農地。不動産リートも商業用ビルより農地リートのほうが資源高時代には受けるんじゃない?

次の話題はアラスカの政府系ファンドの話。原油資源に恵まれた同州は原油収入を積み立ててアラスカ パーマネント ファンドを組成している。そのファンドからの上がり(収益)は州民に直接配分されるのがユニークなところだ。昨年は604,000人のアラスカ州民が1654ドル小切手を配当として受け取ったという。この"ボーナス"に使い道の制限はない。

政府系ファンドの収益を直接国民に分配するという発想は傾聴に値する。資源小国日本の世界に誇れる資源といえば、1兆ドルの外貨準備であろう。これを運用して、その運用益を直接国民に還元すれば、かなりの景気浮揚効果が期待できるのではないか?国民を"貯蓄から投資へ"と煽るまえに、政府自身が"外貨貯め込みから投資へ"を実行して、その上がりを国民に臨時ボーナスとして振る舞えば(原油高騰お見舞いとか祝儀袋に書いてね)、国民だってもっと納得するのではないか。

さて、昨晩は米国消費者物価発表。年率で3.9%。コアは2.3%。予想より低めに出たが、相変わらず実質金利はマイナス。これから、原油120ドルの物価押し上げ効果がじわじわ出ることは必定。原油急騰が先行し、じわじわ物価に波及し、インフレ懸念が高まったところで、インフレヘッジのマネーが金市場に流入する、というシナリオも6月には考えられるね。

明日は出張のため、休みます。6月末まで、"怒とうの追い込み"仕事あり、本欄更新も途切れ途切れになるかもしれません。

2008年