豊島逸夫の手帖

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再び"告白の週"へ

2008年7月9日

米大手金融機関の四半期決算発表(告白の週)を来週に控え、米国市場では債券市場への質への逃避マネー流入が目立ってきた(米国債利回りは低下)。この安全性を求める資金の中で、インフレを嫌うマネーは債券も嫌い金へ分散する。ただし、原油急落、ドル高、株高の中では金も下げ。とはいえ、原油5ドル急落して金5ドル下落という下げ幅を比較すると、金の下げ方が限定的に見える。プラチナ30ドル安のほうが派手だ。やはり米国金融不安再燃となると、金に質への逃避買いが入ることが下げのブレーキに働いているのだろう。

先日のセミナー質問でも、"先物やインデックスが規制され原油が下げに転じたら、金も急落?"という質問があったが、原油に比し、上げも下げも地味ということだろう。(ボラティリティーは原油より小さい。代表的商品インデックスの中で貴金属の比率も2.5%前後しかないしね)。

そういえば、プロの間では、原油や穀物は価格急騰が直接庶民の生活に響くから大統領選の年には規制論が通りやすいが、金は、その点、人畜無害みたいな面があるから規制論も出にくいとの話もある。

さて、背景の米国金融不安だが、昨晩のNYではバーナンキによる"投資銀行にまで拡大したFRB特融措置を来年前半まで延長"との発言が、とりあえず市場に安心感を与え、ドルが反騰。そもそも9月17日までという期限付き特別救済策だったので、マーケットには9月危機説が強かったことの反動であろう。

でも、よーく考えると、バーナンキは"大手金融機関破たんに備えた措置を取る"と、先日のロンドンにおけるポールセン発言と歩調を合わせるようなコメントもしているので、米国当局サイドは、しきりに破たんの覚悟を迫っているようにも見える。"too big to fail=金融機関が巨大化しすぎて潰すに潰せない、というこれまでの業界の常識は最早通用しない"ことも明言していることまでポールセン発言に似ている。(本欄7月3日付け"風雲急を告げる2008年第三ラウンド"参照。

どうも執行猶予期間を延長したうえで、サッカーグラウンド(=市場)から去るべきところは去れ、という一枚目のイエローカードを切ったようだね。さすがに一発退場のレッドカードは切れないよ。でも底流には、潰すべきところは潰さないと完治とはならないというグリーンスパン流が思い出される。その意味でも、来週の米国大手金融機関の"告白の週"を控え、マーケットは神経過敏なのだ。決算が悪いのは分かっている。でも そのマグニチュードが震度3なのか、ひょっとしたら6強なのか。4弱程度なら織り込み済みで目先は落着するのだが...。

足元の金市場は売られて920ドルを割り込んだが、NY先物買い残が先週100トン以上増えた分、短期的価格水準が30ドル程度底上げされた感じ。でも900ドル以上の水準の雪質は未だフワフワの新雪。この譬えも冬に使ったときは季節感があったが、梅雨の蒸し暑い時期に使うと冷涼感があるよね(笑)。

2008年