豊島逸夫の手帖

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利下げ依存症からの脱却なるか

2008年4月24日

株もドルも金も正念場だね。マーケットの現状は、バーナンキ医師から点滴で"緊急流動性"と"追加利下げ"を注入してもらい、ICU(集中治療室)から一般病棟に移った段階。でも、まだ、点滴の針はささったままだ。そして来週、いよいよ"利下げ"の点滴針が外されるか否かの診断が下される。これまで"利下げ依存症"の症状を呈してきたマーケットゆえ、その点滴針を外すことには心理的不安がいっぱいだ。でも、このまま いつまでも利下げ点滴を続けるわけにもゆかない。その効果も、徐々にカラダが慣れてしまうと薄れてくる。かえって、体内に"過剰流動性"という後遺症を残すことのほうが心配でもある。

来週の診断=FOMCでは、利下げ幅を25bpに留めるか、あるいは利下げを見送るか。いずれにしても追加利下げ傾向の打ち止め感、その先にはインフレ予防のための利上げへの転換の可能性も見え隠れする。

ここではFRBとECB(欧州中央銀行)のインフレアレルギーの差も重要だ。ドイツのワイマール時代に1兆マルク紙幣という超インフレを体験したドイツ連銀が土台となっているECBと、そのような経験のない国のFRBでは、おのずとインフレ予防という金融政策順位は変わってくる。現段階では、ECBが利上げまで匂わせているのに対し、FRB内では意見が分かれている。

金市場では、大きな流れとしては、利下げ打ち止め感が相場の頭を重くしていることは事実。2月25日のブルームバーグ インタビューで語ったシナリオが現実味を帯びてきた。

2月25日(ブルームバーグ):インフレ観測の盛り上がりを背景に再び騰勢を強める商品相場。金相場も足元で史上最高値を更新するなど息を吹き返したが、米国の金融緩和がすでに終盤との指摘が増えてきたことで、金にとって最大の買い材料が徐々に効力を弱めると意識され始めており、早晩ことしの高値に到達する可能性が高まってきた。

「米国にまだ利下げ余地はある。だが、打ち止めが視野に入れば金の市場はすかさず先取りして売りに転じるだろう。うわさで買ってニュースで売る展開だ」-ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の豊島逸夫・日韓地域代表は、金相場が春先に高値を付けた後に調整を余儀なくされると警戒する。

なお、金利動向を決定するマクロ米国経済動向については、Vか、Uか、Wか、はたまたLか、議論が分かれる。FRBはV字型の急速な回復を見込む。対してIMFは底の長いU字型という見立て。筆者は、ご存じW字型のダブルディップと見る。最悪のシナリオが欧米では日本型と言われるL字型。長期的に低迷。さて、金内部要因として、金ETF残高急減が気になる。

4月21日805トン、22日787トン、23日775トン。400ドルから500ドルの水準で買い始めた金ETF投資家が、明らかに利益確定の売りに出ている。

なお、金ETF市場規模が800トンというような成熟したマーケットになると、secondary market流通市場の流動性も豊富になるから、そこで金ETFを借りて空売りするショートポジションも増えやすい地合いとなることにも注意。"空売りも出来る"というのが、そもそもETFの"売り"でもあるのだ。

サブプラ信用不安、そこから派生したドル安も金価格上昇の推進力となっていた。そのドル安の流れにも打ち止め感が囁かれる。しかし、これはあくまで短期的な相場の戻しであって、鳥の目で見たドル安の潮流は変わるはずもない。(米国経済が、ここ数週間で劇的に改善したかい?)

信用不安も改善が伝えられるが、昨晩、NYの債券関係の友人が言っていた。"The credit market is still tight. We cannot sell anything."="債券市場は、相変わらずきついよ。売るにも売れない。買い手がつかない。"それだけ銘柄の質的選別に神経質となり、サブプラに汚染されていない債券まで警戒の目で見られる。これは虫の目で見た、マーケット最前線の情報。

金市場の話に戻って、900ドルを割ってくると、ここは再び需給相場。下値を支える実需の中継基地ドバイの動向が気になる。ということで、来週1週間 中東に出張してきます。会議なのですが、ADIA(アブダビ投資庁)などのSWF(政府系ファンド)の動向も見てきます。ドバイからインドへのモノの流れも直接、観察できると思います。

盟友GFMSポールウオーカーのエピソード。ドバイの貴金属商の2階で話しこんでいたら、突然、地響きでビル全体が揺れた。てっきり地震かと思ったら、インドからまとまって搬入されたリサイクル環流金地金の山が1階の倉庫に搬入されていたのだった。こういう虫の目の情報も筆者は大事にするのだ。まぁ、そんなわけで、来週1週間は このコラムもお休みになります。連休後に再開します。

みやげ話は、5月24日に新宿住友ビルで開催予定のWGC単独主催セミナーでたっぷり語りましょう。久しぶりのWGCセミナーですが、連休明けにも告知します。

2008年