豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 金需給四季報により確認された市場トレンド
Page603

金需給四季報により確認された市場トレンド

2008年12月3日

今年第三四半期の世界金需給は、これまで色々な観測に基づいて書かれてきた金市場トレンドが、統計数字によって確認されたという意味で示唆に富む内容である。

まず、同時期の金価格の動きをおさらいしてみよう。
7月1日に937ドルで始まった後、同15日には986ドルまで急騰。その後、急落し8月19日には788ドル。いったんは800ドル台を回復したものの9月11日には740ドルまで下げる。しかし、その後一転905ドルまで急騰し9月を終えた。なんとも劇的な3か月間であった。

その間の金需要はと見れば、総需要は1133トンで前年同期比18%↑。その内訳が興味深い

宝飾用需要 647トン ↑ 8%
工業用需要 103トン ↓11%
投資用需要 382トン ↑56%

内訳

金地金 100トン ↑69%
金貨  61トン ↑60%
金ETF 150トン ↑ 8%
インデックスなどの
機関投資家需要
マイナス296トン

この意味するところは、ファンドのドルショート、金ロングのポジションが巻き戻され、商品インデックス投資商品には解約の波が直撃した。とくにAIGのインデックスに不履行リスク懸念、そして9月後半にはヘッジファンドが大量解約、追加証拠金に迫られ金買いポジションの手仕舞いが集中した。その結果296トンもの金が売られた。いわゆる"リスク資産の圧縮"現象が統計数字でも確認されたわけだ。

このように商品インデックスや金仕組み商品が激しく換金売り処分されたのに対し、個人投資家は買い向かった。

金地金、金貨という今までは"原始的"と思われていた金現物の原点への投資が急増している。サブプライムで、複雑で分かりにくい投資商品からシンプルで分かりやすい投資商品におカネが流れているとは、良く言われてきたことだが、これも数字で検証されたわけだ。

さらに、機関投資家の間でも金市場から出てゆく人たち、そして入ってくる新規参入組という二極化が顕著である。上記のインデックスに流入した投機マネーは撤退。対して、長期現物保有の現物型金ETF(SPDRゴールドなど)には年金などの足の長いマネーが流入した。同期間にNY金先物買い残高も7月1日の583トンから9月30日の366トンまで急減している。投機マネーが売って下がったところを 長期投資マネーが拾っている構図が鮮明に出ている。

そして、金宝飾需要は、国別、時期別にマダラ模様である。

国別にみると、こうなる。まず、宝飾需要中心の新興国は、押し並べて増加しているが、その購入は7-8月の金価格急落期に集中している。逆に900ドルの高値圏ではぴったり止まっていた。価格に非常に敏感である。

インド 249.5トン ↑31%
中 国 99.8トン ↑20%
中 東 108.1トン ↑15%

対して、先進国米国の金需要は、サブプライムの影響がこれまた鮮明に出ている。消費減退で宝飾は大幅ダウン。対して、投資需要は金融危機により急上昇という対照的な構図である。
米国 64.9トン ↑6%(宝飾41.1トン ↓29%、金貨・金地金23.8トン ↑586%)

ここで国別のコメントを記しておく。
(インド) 
7月中旬から8月中旬にかけての安値圏に買い集中。モンスーンの雨量良好で農村部の金宝飾品買い好調。しかし、それ以降は国内価格反騰(ルピー安)で低調に。景気後退、二桁インフレが消費を抑制。
(中国)
安値圏ではバーゲンハンターの買い。その後の価格上昇期には、モメンタムの買い。とくに24Kジュエリー中心に好調維持。
株価下落、不動産バブル破綻などで行き先を失ったマネーの一部が金に流入。
(米国)
宝飾品不調。金貨・金地金需要、急増。
宝飾業界では貸し渋りの影響で在庫金融出来ず。大手宝飾チェーン倒産もあり。在庫処分売り。
金貨は米国造幣局のイーグル金貨が製造中断の局面も。その後も金貨は割当制。リーマンショック後はとくに需要急増。金地金・金貨をカストディアンに保管することに懸念を示す投資家も。

なお、工業用は世界的景気減速の波に直撃されダウン。この部分は姉妹メタル=プラチナと運命を共にする。

次にサプライサイドにも大きな変化が統計数字で確認された。
まず、中央銀行の売却は23トンで↓87%。第二次ワシントン協定4年目は 年間売却量357トンで500トンの年間売却枠を大幅に下回った。スイスが売却完了。(なお、IMF400トン金売却は実施の見込みだが、ワシントン協定の年間売却枠内にカウントされよう、との見通しが書かれている。)

そして、ヘッジ買い戻しは急減でマイナス63トン。ヘッジ売り残高もピークの3000トンから、ついに500トン台にまで減少。峠を越した感が強い。これからは、ヘッジの買い戻しが下値を支える効果は薄れよう。

最後にリサイクルは↑13%で244トン増。高値圏では引き続き換金売りが目立ち、これが相場の頭を押さえていることが確認された。

以上見てくると、第三四半期の需給統計が、今の金市場の縮図を物語っていると言えると思う。10-12月期も、同様の市場の基礎的構図が続いている。
それは、おそらく2009年に入っても、大筋変わらないと思われる。

2008年