豊島逸夫の手帖

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円安ドル高、ユーロ高ドル安、ユーロ円が浮上

2008年6月6日

ECBトリシェ総裁の利上げ示唆発言が効いた。インフレ警戒モードで金利据え置きは織り込み済みだったが、さらに利上げにまで踏み込みコメントすることは想定外だった。ユーロが一気に買われ、ドル安ということで原油は5ドルの大幅反騰。金は前日のバーナンキ利下げ打ち止め示唆発言を引きずって一時は865ドルまで売りこまれたが、その後、トリシェ発言がユーロ高ドル安を誘うと一気に880ドル近くまで反発。しかし、よーく考えると、ECBが利上げするとなれば、FRBもバーナンキはドル安懸念する立場から、対抗上、利上げせざるを得ないのでは、との観測も浮上。金価格の頭を抑えた。

ユーロが買われる中で、円は相変わらず我が道を行く。とにかく円金利の絶対的水準が安すぎるから、人気ないね。95円まで円高が進行した時、9割の外為市場関係者が"目先"90円あるいはそれ以上の円高を予測したことについては十分に反省してもらいたい!円安、ユーロ高でクロスレートのユーロ円が上昇中。

米政府の税還付も効いているみたい。一人600ドルの小切手をもらったアメリカの消費者がウオールマートに殺到している感じ。同社業績絶好調。

モノライン格下げが懸念視される中で、格付け機関の実態も懸念視。問題は、格付け手数料がコミッション制で起債成立ごとに支払われるので、起債が増えれば増えるほど格付け会社は儲かる仕組み。そうなると起債を成立させるために格付けは甘くなりがちだ。その悪い面がサブプラ関連債券に出てしまった。それから、発行体は、ある格付け機関の格付けが悪いと別の格付け機関に行く という、甘い格付け機関を求めてのショッピングに走りがちという傾向。このような問題を改善するためNY検察局が動き始めた。

日本ではガソリン財源問題で末端石油価格が大きく振れたが、新興国では、これまで多くの国が政府補助により国内石油価格を安く抑えていた。もちろん人心懐柔策である。しかし、ここにきてついにギブアップ。例えばマレーシアは今週、一挙に国内石油価格を40%引き上げ。インドも8-17%アップ。同国は石油価格補助に年間6兆円(GDPの3%相当)を投じてきたそうで、それじゃ持つわけないよね。これまでは新興国のインフレに対して人為的な蓋がされていたわけだ。今後一挙に新興国インフレが顕在化、そして加速する様相。

今、NY市場では9月危機説が流れる。FRBが緊急流動性投入策として適格担保債券の種類を拡大し、対象も投資銀行にまで広げた新救済策は9月までの時限措置となっている。それまでに話題のリーマンブラザースがどこかに買収されるのではとの噂が根強い。もし、それが成立しなければ、FRBは新救済策も延長せざるを得ないかも。そうなると、またマーケットは疑心暗鬼になる。"まだ、なにかあるの?我々マーケットが知らない何か情報を握っているの?" FRBや当事者が否定すればするほど、マーケットが疑り深くなることはベアスタの時に経験したこと。本当に"信用"というのは揺らぐと脆いものだね...。

英語でblood on the streetと言うのだけど、血の匂いがする。今年の夏は猛暑らしいが、マーケット関係者は、うかうか夏休みもとれないと覚悟しておいたほうがよろしい。

思い起こせば昨年8月サブプラ危機が深刻化したとき。本欄にも書いた覚えがあるが、筆者のNYの友人たちは皆、リゾートのビーチでもブラックベリー(携帯端末)を肌身離さず。中には防水加工までして持ち歩く奴もいた。その彼はハイイールド部門だったが、今やマーケットにその姿はない。故郷のアイオワに帰り、アグリビジネスを始めた。"トマトは値動きが安定しているからfixed income=債券、ピーマンはボラが大きいから株"というような資産運用の発想で、作付面積のアロケーションをしている。Once a dealer, always a dealer. ひとたびディーラーになったら、もう抜けられない、とはよく言ったものよ。

2008年