豊島逸夫の手帖

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2009年金価格見通しのポイント パート1

2008年12月22日

来年の見通しについては、近々まとめて書くつもりだが、筆者が一番気になるポイントは"いつ、米国債バブルがはじけるのか"ということだ。

FRBが、様々な債券を買い取り、民間のリスクを一人で請け負う形になっている。その結果、FRBのバランスシートは膨張。自己資本400億ドル以下なのに、資産は2兆2630億ドルに膨らんでいる。そのレバレッジたるや、なんと50倍である。そんじょそこらのヘッジファンドでも目を丸くするであろうリスクテークだ。FRBの財務健全性が深刻に懸念されるような事態になれば、そのFRBが発行するドルの価値がどうなるか、容易に想像がつこう。

そして同じ米国の財務省の方はと言えば、公的救済と景気浮揚のための大型財政出動で、財政赤字がGDPの12.5%を超える。そこで大量の国債発行となるわけだが、それを一体誰が引き受けるのか。当面は信用リスク高まる中で世界中の投資マネーが"質への逃避"により米国債買いに走っている。しかし、ドル安が進行すれば、巨額の為替差損が発生する中で、チャイナマネーもオイルマネーも、どこまで米国債保有を維持できるであろうか。

米国債が暴落して一番損するのは、実は最大の米国債保有国=中国なのだが、北京の党首脳には国際経済感覚が欠如しているから、目先の差損にパニクって"米国債を処分せよ"などと言い出しかねない。そうなると最後にはFRBが米国債を買い取るしかない。FRBは民間のリスクのみならず米国のカントリーリスクまで背負いこむのだ。そして、通貨乱発によるマネタリーインフレのリスクも生じる。

今年前半は原油急騰によるコストプッシュインフレの懸念が生じたが、後半になりサブプライムデフレの懸念に180度転換した。それが来年後半にはマネタリーインフレに転じる可能性がある。コストプッシュインフレは急性の発作症状を招くが、その痛みは一過性であった。しかし、通貨乱発によるインフレは、糖尿病のようなもので慢性症状が悪化する過程で痛みを伴わない。それどころか、カネ回りが良くなって、景気が改善したかのようなイル―ジョン(幻想)に囚われるからやっかいだ。糖尿病の進行が"臨界点"に達すると、突然、失明とか壊死の症状に見舞われる。米国経済のリスクも似たようなものだ。この1年で、米国の債務不履行に対する保険のコストが25倍に急上昇とFT(フィナンシャルタイムズ)が報じているのも、このような事態が危惧されるからであろう。

米国経済の糖尿病症状が"臨界点"に達したときが、今回の金融危機の"クライマックス"となりそうだ。(それが最終幕になるか否かは、そのときになってみたいと何とも分らない。これに限っては"アンコール"など願い下げだが...)。VIXも最高水準を更新し、金価格も急騰する。しかし、それは一過性の急騰であろう。というのは、米国債が暴落すればドル金利が急騰するからだ。新著の中でも書いたことだが、"経済有事の金"は売りである。

来年の金価格は、前半ドル安だがデフレ進行で伸び悩み。後半に一荒れありそう。ただし、以上述べたことだけが金市場の要因の全てではない。IMF金売却など要注意の材料が他にもある。それは、別稿で論じることにする。

さて、読者の皆さんから、新著が近くの本屋さんに行っても無い。他社の金関連書籍しかないという声がありますが、これは残念ながら出版社の営業力の問題でしょう。知り合いの出版関係者によれば、丸の内オアゾの丸善とか八重洲ブックセンターでは正面入り口に積まれていたが、普通の駅ビルの本屋さんには、置いていないところも多いそうです。

そして、ネット経由の販路では、アマゾンは発売日に瞬間蒸発で在庫切れの表示。次の入荷は来年正月明けとか。楽天も二日目で在庫切れ。どちらも、そこでこの本の販売は止まっています。唯一、セブンイレブン経由がまだ在庫があるので、ここでは本原稿執筆時点では売上ランキングの6位を維持しているとのこと。
すでに次作のオファーが数件来ていますが、今度はパートナーの力をよく見極めたいと思います。色々、出版関係の勉強もさせてもらいましたよ。

金をテーマにして本を書くと、とかく書く方が陰謀説などのストーリーで統一させたがりますが、あれは、そうしないと本の構成がまとまらないからなのですね。だからといって、本を売るために面白おかしく書くことは筆者の本意ではないので、新著では金の多面的な姿をあるがまま実体験に即して書き綴りました。

本の装丁にしても筆者は"控えめに上品に仕上げてほしい"と、とくに強く望んで制作してもらいましたが、本屋さんの店頭に並ぶと"恐慌"とか"炎上"とか、おどろおどろしい大きな見出しと不気味なトーンの表紙でないとインパクトがないのですね。でも、筆者はこれで良かったと思っています。仮にそれが理由で売れ行きが伸びなくても構いません。ただ、印税の寄付額は減っちゃいますけどね(笑)。

2008年